地産地消のサーモン・ホームカミング

地産地消のサーモン・ホームカミング


 今回は、私たちが勤務する21エーカーズで先日行われたイベントを通して学んだ環境とアメリカ先住民族について話をしたいと思う。イベントのテーマは「サーモン・ホームカミング」。もちろん地産地消が大前提で、塩、油類、甘味料、調味料なども全て地元シアトルから100マイル(160キロ)以内で栽培、製造されたもののみを使用した。よって緯度の関係でワシントンでは収穫できないレモンも、オリーブオイルも、砂糖も使えない。最初に企画の打診を受けた時に、ただこの地方で獲れたサーモンを調理して提供するだけでは我々のキッチンとしての面白みに欠けるのではないかと思い、「ではネイティブ・アメリカン(アメリカ先住民)の料理にしましょう」と提案した。

 まず、この地方のネイティブ・アメリカンのトライブ(部族)についてリサーチを始め、シアトルの北100キロくらいの場所にある化石燃料産業への反対運動に積極的で、北米最大となる石炭積出港建設計画を裁判で白紙撤回させたラミ族に注目した。ラミ族居住区にあるノースウエスト・インディアン・カレッジを訪れ、そこで今でも儀式などで振舞われる料理の調理をしているというコミュニテイー・キッチンを紹介された。話を聞こうと訪問すると、USDA(米国農務省)が居住する州や地方も関係なく、十把一絡げに生活習慣病の疾病率が高い先住民たちのために発行したというレシピ本を見せられ、このプロジェクトの難しさを初めて痛感することになった。

 それから学んだこと。狩猟採集民であったラミ族の人々は、合衆国や州政府との条約制定のうちに伝統的な狩猟の場所を失ってしまったこと。鮭やその他の海産物を採っていた内海、サリッシュ・シーの自然環境が破壊され、漁獲高が低下してしまったこと。また農薬や生活排水汚染によって、それまで野草などを採集していた沼地などがなくなってしまったこと。食文化を継承する若者がいないこと……。リストはどんどん長くなっていった。

 決定的なアイデアが浮かばず思案している時に、鮭・マス科の魚類とその生育環境の研究者の方にお話を伺うことができた。「鮭は地球規模のエコシステムにおいて大きな役割を果たしている。毎年、多くの鮭が産卵のために川を遡上し、動物植物のエサとなり養分となる。鮭は川などの内陸部に欠如している窒素や炭素などの海の栄養素やミネラルを運搬し、また産卵時に産卵床を掘る事によって、それまで川底に堆積していた栄養素が水中に散布され、他の生物に栄養を補給する。また、鮭を捕食した動物たちは鮭を森の中に運び入れ、鮭の死骸や鮭を捕食した動物の排泄物によって肥えた土壌は、草木の成長を助け、そうして大きくなった植物は、枯れて川に落ちた時に鮭の稚魚の隠れ家になる。もし鮭がいなかったら、このあたりの樹木はこんなに大きく成長しないだろうし、ワシントン州の愛称はエバーグリーン州ではなかっただろう」と、その研究者は話してくれた。ワシントン州という海と森に囲まれた環境のサステイナブル教育施設で料理をしていながら、鮭について無知であった私たちには、恥ずかしながら目からウロコが落ちるような感覚だった。

 こうして、いろいろと勉強させて頂き、メニューを決めた。前菜は、塩と蜂蜜、そしてインディアン・レモネードとも呼ばれる飲み物に用いられるスパイス(果実)スーマックを使った〆サーモン、桑の実やビルベリー、エルダーベリーなどの野生ベリーを使ったフルーツレザーや、先住民達が食べていたユリ科の多年草「カマシア・レイクトリニイ」の根から作ったディップ、ドングリのクラッカーなどをのせた前菜プレート。スープは、サリッシュ・シーで採れた大鮃とカニ、エビの頭で出汁を取って、アサリやムール貝などを加えたブイヤベース。メインは、ソレルと呼ばれる酸葉(スイバ)とニンニクバターと共に、大きなコラードグリーンの葉っぱで包んで焼いたソッカイサーモン(レッドサーモン)。ソッカイサーモンは無論サステイナブルな方法で、先住民の方が獲ったものだ。本来、この料理はインディアン・ワックスペーパーとも呼ばれる「スカンク・キャベツ(座禅草)」の葉で包んで作るのだが、水質汚染と季節的な問題で材料の確保が難しく断念。付け合せは、ワシントン州の先住民「マカー族」がずっと静かに誰にも知られず80年代まで守ってきたフィンガーポテト「オゼット」のロースト。先住民たちが共生栽培をしてきた南瓜、とうもろこし、豆とこの季節に現代の生産者たちが使い道に手を焼くグリーントマトを煮込んだサコタッシュ。そしてデザートは、バニラの代わりに、クリスマスツリーとしても用いられるベイマツで香りをつけたアヒルの卵のカスタードを添えた栗と南瓜クリームの天然酵母デニッシュ。

 すべての料理に意味があり、環境に関しての学びがあったメニューができた。私たち料理人にとってもマイルストーンとなる貴重な経験であったことは間違いないが、何よりお客様にも喜んで頂けたことが嬉しい限りである。

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この記事の寄稿者

麻子・サリバン
東京出身。1980年代後半に渡米。大学卒業後、10数年にわたり国際営業の仕事で世界中を旅する。シアトルでの学生時代に知り合った料理人のジャックと2003年に結婚を機に、「食」に関わる仕事をしようと決意。Le Cordon Bleu College of Culinary Art で学んだのち、レストランやケータリング会社での勤務を経て、2012年に21 Acres へ。現在はThe 21 Acres Center for Local Food & Sustainable Livingキッチン・チームの一員。

ジャック・サリバン
シアトル出身。料理人歴30年以上のベテランシェフ。12歳の時にレストランで皿洗いの手伝いを始めてから料理の楽しさに目覚め、シアトル・セントラル・カレッジにて製パン・製菓を学び、その後、Le Cordon Bleu College of Culinary Artへ入学。数々のレストランでの勤務経験を経て、2015年から現職。夫婦ともに料理本収集とマーケット巡りが趣味。

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