アップルウォッチはFOMOを救えるか?

アップルウォッチはFOMOを救えるか?


 アメリカでは、スマートフォン・ユーザーの約半数が「スマホなしには生きられない」と感じているという。アメリカ人が、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディア(SNS)を見ている1日の平均時間は、なんと5時間以上。これに、仕事などで必要となるテキスト(文字)メッセージやEメールの処理時間などが加われば、1日の大半はスマートフォンを見ているという人も多い計算になる。

 スマートフォンの弊害を調べる数々の研究によると、スマートフォンの使用はユーザーに睡眠障害をもたらし、集中力の持続時間を短くするという。スマートフォンに依存し過ぎると、自分のスマートフォン(またはデバイス)が作動していないときでも、それが何かの情報が到着したことを自分に伝えているように感じてしまう、「ファントム・バイブレーション」と呼ばれる経験をするようになる。

 また、ある研究では、カップルが一緒にいるときにスマートフォンが近くに置かれているだけで、例えそれを使用していなくても、二人の関係性が悪いと感じてしまうことがわかった。

 なかでも現在、大勢のアメリカ人たちが抱える最大の弊害が、「FOMO」だろう。FOMO とは"Fear of Missing Out"の略で、「なにかを見逃してしまうことへの恐れ」を指す。スマートフォンをチェックしていない間に、他の人たちは自分よりも何か「有意義な経験(rewarding experiences)」をしているのではないか、自分だけがその機会を逃しているのではないかという恐れを感じて、何度もスマートフォンを触ってしまうという、ある種の社会的障害だ。これは、常に何らかの社会的なサークル(知人とのグループ)の中に入っていたいと強く感じる、今や最も一般的なソーシャル不安(social anxiety)だ。FOMOに陥ると、メールなどの文字メッセージをチェックしている途中でも、もしくは仕事中や会議中でも、すぐにソーシャルメディアを見てしまうという。

 このFOMO障害を助長している背景には、携帯電話各社がデータの使い放題月額プランなどを提供しているからだという主張もある。料金が固定であれば、ユーザーは何も気にせずネットにアクセスしやすくなる。だから「ちょっとメールだけ、チェックしておこう」とスマートフォンを手に取った際に、無意識にソーシャルメディアやニュースのアプリ、もしくはゲームのスクリーンにも抵抗なく行ってしまうのだ。

 「そんなことは自己でしっかり管理すれば問題ないはず」と思う人は多いだろうが、すでにFOMO症状が出ている人たちには、それは無理だ。それができれば、そもそもFOMOにはなっていない。

 こうしたことが問題視される中、注目されているのが、 「FOMOに陥ることなく、時間つぶしにスクリーンを見てしまう誘惑を制御する機能」がついている、新バージョンの「アップルウォッチ」だ。「携帯連結性」(cellular connectivity)をフィーチャーした新アップルウォッチは、インターネットを介してiPhoneに繋げていた従来の機種とは異なるため、必要最低限のiPhone機能は使えるが、 ソーシャルメディアを見られる機能はあえて外してある。つまり、Eメールもテキストメッセージも入り、電話も使えるので社会との繋がりは保てるものの、SNSブラウズはできないという機種なのだ。もし重要な連絡が来るのを待っている場合、そのメッセージが到着したことはスマートフォンを取り出さなくても腕を見るだけでわかるので、すぐ対応できる。また、すぐに折り返す必要がないメッセージは、電車に乗ってから、またはオフィスや自宅に戻ってから返信すればいい、と時間の使い分けや優先順位がつけやすくなる。

 この新ウォッチ機能と従来のスマートフォンの差異は、とても小さい。差異が小さ過ぎて、この微妙な違いが人の生活を大きく変える「可能性」を含んでいることに気づかない人も多いかもしれない。見方によれば、スマートフォンとの間に一段階ステップが入っただけのことで、自己制御はどちらにせよ必要だという話になるが、それでも、1日中スマートフォンのスクリーンを見つめなくても、社会と繋がっていたいFOMO欲求を満たすことができるという機種が誕生したことは重要だろう。特に、他社のデバイスが、さらに大きく、さらにコネクションを高める方向へと向いている中、アップル社はメンタルヘルスに注目し、デバイスを小さくする方向へ舵を向けたことは、今後のデバイス開発動向の行方を握る鍵になるだろう。

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