アース・ウィンド&ファイヤーとの出会い

アース・ウィンド&ファイヤーとの出会い


 先日のサンクスギビング(感謝祭)は、夫の家族が住むカリフォルニア州ベイエリアを訪ねた。今年はツアーとは重ならなかったので、久しぶりに家族とのターキー・ディナーを楽しむことができた。 通常はオークランドの隣町、アニメーションで有名なピクサーの本社があるエメリービルにあるホテルに滞在するのだが、定宿が満室だったので、今回はサンフランシスコ側にあるホテルに滞在することになった。ベイブリッジを一望できるこのホテル、なんだか懐かしいと思いきや、なんと以前に、アース・ウィンド&ファイヤー(Earth, Wind & Fire、以下 EWF)のツアー中に宿泊したことのあるホテルだった。

 EWFは私にとって特別な存在だ。中学生の時に2歳年上の兄の影響でファンになり、その強烈なビジュアルと、身体が自然にリズムにのってスイングしてしまうファンキーな音に、鳥肌がたつ感動を覚えた。当時のアルバム・ジャケットのアートワークも圧倒的なインパクトがあった。これはEWFの生みの親、モーリス・ホワイトの意向を直接聞いて取り入れた、日本人の画家でイラストレーターの長岡秀星氏の作品だった。そのひとつ、「太陽神」のアルバムには、代表曲の「宇宙のファンタジー」、「聖なる愛の歌」等が含まれている。余談だが、長岡氏は70年代から80年代にかけてEWF以外に、ELO、カーペンターズ、喜多郎、ディープ・パープルなどのアルバム・ジャケットのアートワークも手掛けている。

 40年以上の年月がたった現在でも、EWFは色褪せることなく、“サウンド”が決して時代遅れでないことに驚嘆する。私が高校3年の時、兄がEWFの東京武道館でのコンサート・チケットを3枚、手に入れた。当然、私も連れて行ってくれると信じていたが、兄は自分の友人と3人で行ってしまった。帰宅した兄たちは興奮が冷めやらず、いかにそのサウンドが素晴らしかったか、 ベーシストのバーディン・ホワイトが舞台上に現れた宇宙船に乗り込んで、宇宙船ごと消えてしまう圧巻なショーだったかなどを、まるで魔法にかかったように半ば放心状態で夜更けまで熱く語り合っていた。私はそれが、本当に羨ましかった。

 時を経て、忘れもしない1989年。昭和天皇が崩御なさったその年の2月は大喪の礼のため、広範囲でイベントや集会、そしてコンサート等は中止され、多くの公共施設は休館、民間企業のCMが自粛された。この時、私はすでに音楽プロモーターとして働いており、あるアーティストの国内ツアー中だった。世界各国から国家元首、使節、大使が参列のため日本を訪れたため、東京都内のホテルには宿泊できず、私が担当したアーティストは一旦香港に渡り、2公演をこなした後、千葉の東京ディズニーランド周辺のホテルに滞在することになった。

 この時、もうひとつ別のバンドが、東京から同じ ホテルに移ってきた。私がみんなのチェックイン等を終えて、自分の部屋に向かうためエレベーターに乗り込むと、ドアが閉まる直前に、長身で細身、眩しいほど、きらびやかな洋服に身を包んだ長髪の男性が乗り込んできた。それがなんとEWFのバーディン・ホワイトだったのだ。「うあっ、どうしよう。バーディンだ!」。ジロジロ見たら失礼になる、でも気になる……。気持ちが動転している間に彼の階でエレベーターが止まり、ドアが開くと同時に目が合ったら、笑顔で挨拶してくださった。同じホテルにモーリス・ホワイトもいるという事実に気持ちが高まったが、滞在中にお会いする機会はなかった。

 1992年、モーリス・ホワイトはパーキンソン病を発症し、2年後の1994年にはバンドとのツアーが不可能になり、実質上ツアーから引退しなければならなくなった。本当に残念なことだった。

 それから数年後、私の米国移住が決まり、私は会社を辞め、友人や家族を残して渡米した。もう二度とプロモーターとしてコンサート・ツアーの仕事に関わることはないと思っていたが、渡米から間もなくして日本でお世話になった方々から声をかけていただき、日本人アーティストの北米ツアーのお手伝いをしながら、米国内でもフリーランスで仕事をすることになった。そして、あるとき日本の招聘元のお手伝いが縁でEWFとも何度か仕事をすることになり、それがきっかけで幸運にもモーリス・ホワイトの引退後、実質上のEWFのリーダーであったフィリップ・ベイリーから直接、声をかけていただいた。そして最終的には、物販からツアーマネージメントまで広範囲にEWFというアーティストと長期にわたって関わることになったのである。

 しかし、EWFとの仕事における私の立場を、あれこれ言う人は少なくなかった。「 なぜ外国人なのだ? アメリカ人で優秀な人材が他にもいるではないか?」と指摘されたり、男性優位の音楽業界において女性であることで厚い壁にぶつかる場面も多々あり、大変厳しい状況に追いやられたこともあった。それでも自分を突き動かしたのは、「日本人として恥ずかしくないように。女性だからといって甘くみられないように」という一心だったと思う。当時は文字通り、24時間体制で休まずに必死で仕事をした。

 そして、最後にはEWFのツアー・マネージャーまで担当させていただくという栄誉にも恵まれながらも、期待に応えようと頑張り過ぎていたある日、私は燃え尽きてしまったのである。ヨーロッパツアーを1週間後に控えた、EWF南米ツアー最終日のことであった。

 その時は、少し休みをいただくと言って一旦身を引いたのだが、結果的には私がEWFに戻ることはなかった。EWFのようなレジェンダリー・アーティストは、年間を通して国内ツアー、海外ツアー、企業イベントなどが比較的安定して入り、ほぼ毎年スケジュールが事前に決定する。よって業界の90%以上がフリーランスという我々のような仕事をする者たちにとっては 「ドリーム・ジョブ」と呼ばれている。そのため、私が自ら辞めることを決めた時は、周辺の友人たちから、「なぜ? もったいない!」と、止められた。しかし、周りから何と言われても、私にはそれ以上その生活を続けることは精神的にも肉体的にも無理だった。今の私であれば、もう少し違った対処が出来るだろうと思うのだが、それはその後に培った経験によって得られた「自信」のようなものがあるからだろう。こう思えるのも自分が成長した証だと思っている。

 私がEWFから離れてから数年後に、一旦引退したモーリス・ホワイトが日本公演のためだけに復帰してバンドと共に日本にむかった。 偶然にも日本の招聘元に依頼され、私が日本で 帯同させていただくことになったのだが、それは偶然ではなく、必然だったと思う。

 この日本滞在中の話は、次号に。

レイ・チャールズが感心したSONY製品

https://bizseeds.net/articles/405

 今年の6月から始まったメアリー・J・ブライジのワールドツアーも、9月下旬に全行程が終了する。今回のツアーは、相次ぐハリケーンの影響で延期や中止になった公演の処理に苦労したが、なんとか無事に終了できそうである。

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