組織改革:アメリカの作法

組織改革:アメリカの作法

アイスホッケー在米日本人コーチの著者が、プロスポーツ・ビジネスの構造や考え方、ユーススポーツの育成やアプローチ方法などをビジネスでも活かせる情報満載でお届け。若林弘紀のコラム『スポーツで知るアメリカ。組織が大きければ、大規模改革の実施は難しい。しかし、それを断行することで得られるものも大きい。ホッケーを例にしてみよう。


競技人口が多い国が「勝てる」わけではない

 アイスホッケーは、サッカー、バスケットボールと共に、北米とヨーロッパ両方で盛んな数少ない集団球技である。しかし、その競技人口には偏りがあり、アメリカ(約56万人)とカナダ(約63万人)を合わせた北米が、なんと世界の総競技人口の三分の二を占めるほど圧倒している(国際アイスホッケー連盟:IIHF 2017年の統計)。これだけの競技人口と世界最高峰プロリーグNHLを擁する経済力があれば、国際大会で常に北米が圧倒的な結果を残していてもおかしくないはずだが、現実はそうでもない。特にアメリカ男子代表は1980年以来オリンピックで金メダルが無く、世界選手権やU20大会でも、スウェーデン(約6万4千人)やフィンランド(約7万6千人)等、アメリカの15%にも満たない競技人口の国の後塵を拝するなど低調な時期が長く続いた。

 豊富な競技資源を活かせていない現状を脱するため、統括競技団体USA Hockeyは、2009年にAmerican Development Model(以下ADM)という大改革を断行した。

成果をあげる画期的な改革にも反対の声

 この改革は科学的根拠に基づき、合理的かつ一貫した年代別選手育成方法をマニュアル化しただけでなく、育成年代別の試合数と練習数の比率や大会の実施方法、クラブの構成にまで踏み込んだ素晴らしい内容である。ADM以前にもコーチング・マニュアルやライセンス制度は当然存在していたが、必要なライセンスを取得していれば、具体的育成方法は各クラブとコーチたちに一任されていた。そこに導入された新しく合理的なADMは、アメリカのユースホッケー業界で諸手を挙げて大歓迎された……わけではなかった。なかでも特に「若年層の試合数を減らして練習の比率を増やすガイドライン」、「8歳以下は、子供の体格に合わせてリンク全面ではなく半面や三分の一面を使う試合形式の義務化」、「勝利至上主義と早期エリート化を抑制するため、8歳以下では優勝を決める大会の廃止、12歳以下のチームをAAA、AA、Aと名づけることの禁止」などは、既存のユースホッケービジネスに大きな影響を及ぼすこともあり、強い反発と議論を招いた。

 そもそもフリーダムの国アメリカでは、政治・経済でも、連邦政府等の統括団体からの強いコントロールを嫌う傾向があり、いかに合理的であっても上意下達式の大規模な制度改革には非常な困難を伴う。そこでUSA HockeyはNHLと提携し、アメリカ人のNHL選手やコーチたちが、ADMの合理性を各メディアで伝えた。また、ADM特設ウェブサイトで育成情報を分かりやすく配信。全米各地にADMマネージャーを設置し、指導者向けセミナーを通年で行いながら、ADMの利点を草の根レベルで啓蒙していった。さらにADMの趣旨に賛同し、ガイドラインに沿った運営を導入するクラブを全国から募り、USA Hockey Model Associationsに認定し、優先的に支援することで、競技構造改革への参画を後押しした。

 その結果、アメリカの選手育成は短期間に目を見張る成果を上げ、U17、U18、U20代表は世界大会の常勝チームとなり、NHLのアメリカ人選手比率も増加した。結果を見せると懐疑的だった人々も急に熱狂的な賛同者になるというのも、実にアメリカ的だ。この改革は現在も着々と進行している。

 次なるプロジェクトは、エリート・アメリカ人ゴールキーパーの育成だ。2030年までにNHLと女子のトップリーグで、アメリカ人ゴールキーパーのプレー時間を全体の51%以上に増やすことを目標にしている。現状は約20%なので、二倍以上というかなり高い目標設定だ。こちらの改革も、防具メーカーを巻き込み、出来るだけ多くの子供たちがゴールキーパーを体験できるように簡易着脱可能なゴールキーパーの防具を開発したりと、目標達成のための取り組み手法は大胆かつ計画的である。

 組織が大きくなると、様々な利害関係のしがらみで大規模な改革が難しくなるのは、どの国や社会でも見られることだが、高い理想と目標を掲げるだけでなく、具体的かつ徹底的な改革を断行して成果を上げるADMは、どの分野にも大きな参考材料になるだろう。

タイムズスクエアに20トン超の砂糖の山 子供の食生活に警鐘をならす

https://bizseeds.net/articles/366

 ヘルシー志向のスナックを製造販売するカインド(KIND)社が、8月22日、ニューヨークのマンハッタンの中心地タイムズスクエアで、重量にして4万5千485パウンド(約20トン)もの砂糖を積みあげるというイベントを行った。

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この記事の寄稿者

 筑波大学大学院体育科学研究科修了。USA Hockeyコーチ・ライセンスの最高位、Level 5(マスターコーチ)を保有。1997年に北米に渡り、日本人として初めてカナダのAAAレベルとアメリカNCAA(全米大学体育協会)でコーチを務める。
 帰国後、アジアリーグ日光アイスバックスのテクニカル・コーチを経て、2006〜12年は北米、2012〜13年はトルコ、2013〜15年は香港で男女代表チームを指導。
 2015年に米国へ移住し、NHLアリゾナ・コヨーテズのユースチーム他、世界各地のホッケーキャンプで指導。現場での指導の他、競技人口や競技施設を効率的に配置し、最適化された競技環境を構築する「競技構造」という概念を考案、研究している。

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