アメリカの食卓を通して考える、日本の食文化の素晴らしさ

アメリカの食卓を通して考える、日本の食文化の素晴らしさ

オーガニックワインや野菜の生産で有名なシアトル近郊、Woodinville。その街を代表する農場「21エーカース」の料理人、サリバン夫妻が語るサステイナブルな食とは? 『地球に優しく世界を食べよう!』。「アメリカの食」は多様性に富んでいる。それを通して見える「日本の食文化」の素晴らしさとは、何であろうか?


和食への評価の背景にあるもの

 私(麻子)がアメリカで生活をするようになって来年で早30年。以前このコラムにも記した通り、「アメリカの食」というテーマは実に難しく、奥深いトピックではある。今回は第二弾として、その「アメリカの食卓」を通して見える、日本の食文化の素晴らしさというテーマで話をしたいと思う。

 2013年12月に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されて以来、和食はより一層、世界から注目される食べ物になった。寿司、そば、天ぷら、うなぎと、アメリカにもそのファンは多く、私の住むシアトルでも和食レストランは数、そして質ともに年々向上している。しかし、ユネスコ無形文化遺産は料理そのものや味への評価ではなく、自然や四季との調和、そして儀礼や祭などの年中行事との密接な関わり、一汁三菜と言った栄養バランスのいい日本の食事スタイルなど、独自性のある食文化が評価されたという経緯があることは、あまり知られていない。俳句に季語があるように、日本料理は器や献立にも自然や季節が表現されているなど風情がある特徴も評価の対象だったのだ。

 私は年に数回日本に里帰りをする際に、「日本発酵文化協会」が主催する講座を受講し学んできた発酵マイスターでもあるのだが、学べば学ぶほど日本食の味のベースである味噌、酒、醤油、みりんなどの発酵食品の素晴らしさには感嘆するばかりである。また、それらの食品の材料でもある麹を利用することを始めた日本の先人達の知恵には感服してしまう。ザワークラウト、ヨーグルト、ビール、サワー種を使ったパンなど、発酵という調理方法を使った料理や保存食品は様々な国や地域にあるが、日本のように菌(麹)のみを分離、培養して種麹として販売する「もやし屋」や「種麹屋」と呼ばれるような商売が古くから存在した国は非常に珍しい。昨今は空前の甘酒ブームだが、麹を用いて作られた甘酒は、その栄養素や効能から「飲む点滴」とも呼ばれているように、麹は保存性をアップさせ、甘味や旨味など味を向上させるのみではなく、ビタミンや酵素などを多く含み、私たちの健康にもメリットがあると知られている。それらの素晴らしい特性を持つ麹を日々摂取する日本人が、世界の水準と比較しても長寿であり、優れた味覚を持つと評価されるのもよくわかる。

健康的な日本食に対し、アメリカは?

 今でこそ、こうやって麹の素晴らしさを力説してしまう私だが、実は17歳で渡米した時、私は味噌汁も納豆もぬか漬けも嫌いだった。多くの若者同様に、ピザやパスタといったアメリカの日常食を好み、自分は食に関してはホームシックにはならないと自負していたものだ。30年も経てば人の好みは変わるもので、今は毎日の味噌汁が欠かせないし、アメリカに住んでいると美味しいものになかなか出会えない納豆も、自宅で手作りしている。

 自然の風味と旬の食材を生かす料理スタイル、数々の優れた特性を持つ発酵食品、正月の七草粥など意味や役割を持つメニューと、日本食のいいところをあげればきりがない。その中でも、日々のアメリカの食卓を通して考える日本の食文化の素晴らしさの中で特筆すべきは、日々の献立にあるストーリーと自由度の高さだと思っている。

 アメリカの食事は往々にして「今日はこの料理を作ろう」とメインディッシュを決める必要があるが、日本人の食卓は「米には何を合わせるのがいいだろう」と選ぶことができる。これは料理を手早く簡易に行う上でも、とても役に立っている。私の友人のアメリカ人の女性が以前、健康に気を遣ってオメガ3が豊富なサーディーンの缶詰、植物性の乳酸菌が摂取できるザワークラウト、野菜スティックとひよこ豆のディップを弁当に持ってきたことがある。もちろん食は個人の自由であるし、ひとつひとつの食材はとても栄養価的に素晴らしいが、その食事が美味しいと食せるアメリカ人はかなり少ないだろうと思った。またおかずの組み合わせとしてのバラバラ感に、なんとなく頭の中がモヤモヤしてしまった。それを解消すべく考えあぐねて気づいたことは、アメリカの献立はひとつの大作に集約されてしまうか、もしくは全く繋がりのない要素がいくつか集まっている場合が多いということだった。これを日本の食にアレンジしたら、もっと素敵になるはずだ。サーディーンをちょっと焼いて醤油を垂らしたものに、ザワークラウト、野菜スティックの人参と大根は味噌汁にして、白飯。繋がりのあるストーリーを持った日本食の献立を作るのはあまり難しくない。

 現代人は日本でもアメリカでもいろいろなものに追われ、食べるということが機械的になっているような気がするが、口に入れる食べ物は私たちの体の一部になり、食べるものによって精神的にも大きな影響を受けかねない。アメリカでこの日本文化の素晴らしい食の形を紹介していくのも私の仕事だと思っているが、日本で失われつつある、日々の食を楽しむという日本古来の伝統も守っていかなくてはと考えている日々この頃である。

まるでアイスクリーム? アメリカ発「カップケーキ寿司」

https://bizseeds.net/articles/433

 アメリカで「寿司」が市民権を獲得して久しいが、日本の伝統的な「握り寿司」とは一線を画した、アメリカ生まれの「アメリカンな寿司」の進撃が止まらない。

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この記事の寄稿者

麻子・サリバン
東京出身。1980年代後半に渡米。大学卒業後、10数年にわたり国際営業の仕事で世界中を旅する。シアトルでの学生時代に知り合った料理人のジャックと2003年に結婚を機に、「食」に関わる仕事をしようと決意。Le Cordon Bleu College of Culinary Art で学んだのち、レストランやケータリング会社での勤務を経て、2012年に21 Acres へ。現在はThe 21 Acres Center for Local Food & Sustainable Livingキッチン・チームの一員。

ジャック・サリバン
シアトル出身。料理人歴30年以上のベテランシェフ。12歳の時にレストランで皿洗いの手伝いを始めてから料理の楽しさに目覚め、シアトル・セントラル・カレッジにて製パン・製菓を学び、その後、Le Cordon Bleu College of Culinary Artへ入学。数々のレストランでの勤務経験を経て、2015年から現職。夫婦ともに料理本収集とマーケット巡りが趣味。

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