アース・ウィンド&ファイヤーとの出会い その2

アース・ウィンド&ファイヤーとの出会い その2

アース・ウィンド&ファイヤーや、メアリー・J・ブライジなど、ビッグネームの舞台を支える著者が見た、エンターテインメントの実際とは? 飯塚登志子がお届ける『アメリカのエンタメ業界、そして私の進む道』。今月は著者のアメリカでのキャリアの出発点となったアース・ウィンド&ファイヤーとの仕事が、いかにして始まったかの続編だ。


巨匠モーリス・ホワイトが日本で地震を初体験

 前回のコラムにて、私とEarth, Wind & Fire(EWF)の出会いを紹介させていただいた。その中で、病気のためツアーから引退したEWFの創設者、モーリス・ホワイトが、引退から数年後に日本公演のためだけに来日したと書いたが、私はその日本ツアーに帯同した。

 モーリス・ホワイトがパーキンソン病を発症してから10年ほど経っていた頃で、舞台での大きな動きは可能でも、物を掴むなどの小さな動きが困難だった。コンーサートでは他のメンバーと数曲歌ってから一旦舞台の袖にはけて、また終演間近に姿を見せて、お客様を喜ばせていた。これが モーリスの最後の舞台だとあって、EWFのファンたちは熱狂しながらも、優しさと尊敬の気持ちを持って彼を見守っていた。

 そのツアーでは、東京、大阪、名古屋をまわった。名古屋公演後、ホテルに戻り、メンバーやクルーの面々はホテルのラウンジでほっと一息入れたのち、それぞれの部屋に戻って行った。
 しかし、それから約2時間後、強めの地震が発生したのだ。私たち日本人スタッフは、ホテルの近くで食事をして、ロビーに戻ってきたところで強い揺れを感じた。

 揺れが収まって間もなくすると、アメリカ人のクルー数人とモーリス、バーディン、そしてバンドのメンバー数人がロビーに降りてきた。ほとんどが地震を体験するのは初めで、怖くて部屋にいられなかったのだ。 モーリスは彼自身の希望で和室に宿泊していたが、地震の恐怖でその部屋を楽しむどころではなかったそうだ。

 みんなで集まったままロビーで昔の思い出話に花が咲き、冗談も飛び交ったが、まだ彼らは「自分の部屋に戻るのは怖い」ということで、真剣な面持ちでホテルのスタッフに「ロビーで寝たいので毛布と枕を」と、お願いした。モーリスは、畳の部屋で布団を敷いて寝ることを大変楽しみにしていたので、「ロビーには畳マットはないけれど、ここに布団を敷けば同じだよね」と、本気で私に聞いてきた。私が「もう揺れも収まったから、そろそろ部屋に帰っても大丈夫。明日があるから、みなさんおやすみください」と説得しても、一向に部屋に戻ろうとしない。 私たちスタッフは立場上、彼らを残して部屋に戻るわけにもいかず、ロビーで彼らと一緒に2時間ほど過ごし、やっとモーリスが部屋に戻る決心をしたのをきっかけに各自が部屋へと戻って行った。モーリスは、「今日もいろいろありがとう。 地震は収まったという君の言葉を信じるよ。君も疲れたでしょう。おやすみなさい。本当にありがとう」と言い、ゆっくり、ゆっくりエレベーターに向かって歩き始めた。

「ドリーム・ジョブ」を離れても

 「ドリーム・ジョブ」と呼ばれていたEWFの仕事を自ら辞めた私だが、彼らに対する尊敬と畏怖の念は、モーリス最後の日本ツアーの時も、そして今現在もまったく変わらない。モーリスは、バンドリーダーとして信望が熱く、アーティストとしての才能もビジネスマンとしての手腕を持ち、人数の多いバンドメンバーを統率する大きな力もあった。EWFは1983年から数年、ソロ活動期に入った。その間、バンドのメンバーたちは、フィリップ・ベイリーがフィル・コリンズのプロデュースでリリースした「イージー・ラバー」のようにヒット曲に恵まれたケースもあったが、ほとんどは羅針盤のない船のように方向を見失って苦労したと聞いている。

 EWF は1987年に活動を再開。1990年からはモーリスはプロデューサーとしても活躍したが、その頃から少しずつ病が忍び寄ってきていたのだろう。1994年にモーリスは完全にツアーから引退したが、その時はまだ53歳という若さだった。それから20数年、病気と戦いながらプロデューサーとして活動を続けた。10代からセッション・ドラマーとして活躍し、その後EWFのリーダーとして数々の名曲やヒット曲を生み出した才能の宝庫であったモーリスは、2016年2月4日、74歳でこの世から旅立った。

 モーリスの残した偉業は、 フィリップ・ベイリーや、弟バーディン・ホワイトたちによって歌い継がれ、現在も世界中の音楽ファンを楽しませている。彼らの音楽は何十年たっても色褪せることなく、たくさんのアーティストに影響を与えている。日本にもEWFの影響を受けたバンドや歌手は少なくないはずである。

 中学の時に初めて彼らの音楽に出会い、彼らの曲を聴くたびに心と体が喜びで踊り出す幸せを体験し、今でもその感覚は鮮明である。音楽は素晴らしいものだと思う。私は音楽を作ることや、演奏する才能には恵まれなかったが、EWFのような最高の才能を持つ集団のお手伝いをスタッフの一員としてできたことに心から感謝している。そして、この経験を生かし、社会に貢献できる自分を目指しながら前に進んでいきたいと思っている。

 『Shining Star』を聞くと、思わず笑顔になり、「なにも不可能なことはない」と思えてしまうから不思議だ。ああ、音楽って本当にすばらしい。

アース・ウィンド&ファイヤーとの出会い

https://bizseeds.net/articles/546

 先日のサンクスギビング(感謝祭)は、夫の家族が住むカリフォルニア州ベイエリアを訪ねた。今年はツアーとは重ならなかったので、久しぶりに家族とのターキー・ディナーを楽しむことができた。

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