ミレニアムのテレビは「コード・カッティング」

ミレニアムのテレビは「コード・カッティング」

進化を続けるオンライン事情により、日々豊かに変化していく人々の暮らし。そんな世界で賢く生きる術とは? デジタルマーケティング専門家、ティム・ポールが解説するコラム『オンラインと僕らの生活』。最近はアメリカの一般家庭でも自宅用の電話を引かず、携帯電話だけにする人が増えたが、テレビもまたその流れを追っている。


「居間にテレビ」はもう必要ない

 地上波のテレビ局しかなかった1980年代のアメリカにケーブル・テレビが登場した頃は、人々はMTVのミュージック・ビデオや、24時間ニュースを放送するCNN、有料チャンネルHBOのオリジナル・ドラマなど、それまでにはなかった新しいコンテンツが見られることに興奮した。

 今日のアメリカには、地上波テレビ局はABCやNBCなどの5局と、PBSなどの公共TVチャンネルが1〜2局あり、それ以外はケーブル・チャンネルだ。

 1990年代には次々と新しいケーブル・チャンネルが作られ、各ケーブル会社は500以上ものチャンネルがパッケージになったサービスを売り出した。1992年には、ブルース・スプリングスティーンが『57チャンネル(アンド・ナッシング・オン)』(57チャンネルあっても見るものがない)という曲を書き、『TIME』誌は「見たいものがない500チャンネル」という見出しで特集を掲載した。

 約500チャンネルあっても、200〜300番代のチャンネルは、TVショッピングや政府自治体の放送、もしくは追加料金を支払わなければ見られないチャンネルだ。もしゴルフや野球などのスポーツ専門チャンネルや、インディペンデント映画のチャンネルをサービスに加えると、月額の請求書は驚くほど高くなる。その上、ケーブル会社が操作しているため、何の意味もない(もしくは無料では見られない)何百というチャンネルをテレビガイド画面からも、リモコンからも消すことができず、「見たい番組の放送時間を調べよう」などと思っても、何百というチャンネルをスクロールしなければ、欲しい情報が得られない。ケーブル会社側にしてみれば、例えば「客が偶然に379チャンネルを見て気に入り、それを月間契約する」ことを望んでいるだろうが、ほとんどの客にとっては、200〜300番台チャンネルの存在は邪魔でしかないだろう。

 ケーブル会社のパッケージを購入した客たちは、かなり早い段階でこの「約500チャンネル」の本当の中身に気付き、ケーブル会社との契約をやめたいと考える人が増えた頃に家庭にもインターネットという時代がやってきた。

 2000年代初頭は、ほとんどの大手ケーブル会社とインターネットのサービス・プロバイダー会社が高速インターネット・サービスとケーブルTVを抱き合わせたパッケージの販売を開始。そのパッケージは、契約当初の半年間か1年は非常に格安な月額になる大幅割引をした上で2年契約を約束させて客を集めた。その結果として、小規模なインターネット・サービス・プロバイダーは消滅し、市場にはいくつかの大企業だけが残った。

 そして、この「インターネットとケーブル・テレビの抱き合わせサービス」は、契約当初のお得な割引期間が終了した途端、月額が驚くほど高くなるため、ほとんどのアメリカ人が月額$100〜$250もの高額を支払わねばならなくなった。しかも、すでに小中規模のプロバイダーは廃業に追い込まれた後で、他のプロバイダーを探して移りたくても、乗り換える先となる会社がないという市場が作られていた。

 しかし、インターネットの高速サービスに求められる速度が増すごとに、大手ケーブル・テレビ会社も競合に押されるようになった。インターネット回線のスピードは速ければ速いほど良いという時代に現れたサービスが、「オンデマンド」である。

オンデマンドとSNSがあれば支障なし

 インターネット上でオンデマンド映画を最初に提供したのは、Netflixだった。その後を、プライム・ビデオ・サービスを引っさげてAmazonが続いた。そして、ほぼオンタイムで放送されているテレビ番組を提供する契約サービスのHuluが市場に参入した。それと同時期に、ケーブル・テレビ各社も限定したコンテンツをオンラインでも提供することを開始した(無料のニュースや月額契約でHBOなどのプレミア・チャンネルが見られるサービスなど)。スポーツ・ケーブル局は、注目の試合などのペイパービュー、オンラインでの番組提供や視聴契約などを開始した。たとえば、大リーグ野球ファンには、一定の月額を支払えばMLBの試合が年間通して見られるパッケージが用意され、サッカー・ファンにはシーズンを通して安価で各地の試合が見られるパッケージなどが作られた。

 しかし、その間にソーシャルメディアが、「ほとんどのアメリカ人が日々のニュースをそこから得る」というまでに成長していた。まるでケーブル・テレビがCNNを世の中に出したときの地上波の夕方6時のニュース番組のように、インターネットは新聞をすたれさせた。毎日決まった時間にテレビの前に座って、その日のニュース番組を見ることや、毎朝コーヒーを飲みながらインクの匂いがする新聞を広げることは、時代遅れになったのだ。

 インターネットでは、幅広くバラエティーに富んだニュースが無料で読める。有料契約でもオンラインなら、たいてい月額は10ドル以下(約1,000円以下)と財布に優しい。そのため、インターネットだけを契約して、自分の興味のあるテレビ番組やコンテンツだけをストリーミング配信で見る利用者が驚くべき勢いで増えた。この選択をすることをアメリカでは「カッティング・ザ・コード」と言うが、今やケーブル・テレビ会社がアメリカの約半数の家庭にインターネット・コネクションを提供していることを考えると、この現象はケーブル・テレビ会社にとっては、ある意味シンボリックだ。高速インターネット・コネクションを提供した結果が、ケーブル・テレビを不必要にしたのだから。

 最近は、安価な高速インターネット・プロバイダーが出てきた上、精度の高い製品が増えたため、スマートフォンでも居間のテレビの代用になる。そこにプレミアコンテンツの配信契約や、NetflixやHuluによるテレビ番組のストリーミング配信、Amazonプライムの無料コンテンツなどを加えると、かなり多数のコンテンツが選択できる。既存のケーブル会社のように、枠を埋めるためだけに用意された無意味な何百ものチャンネル提供ではなく、人々が本当に見たいと思う番組だけを安価で提供するシステムを選ぶ「カッティング・ザ・コード」の流れは、アメリカ人に経済的な得をもたらすだけでなく、見たい番組をさっと見られる便利さはもちろん、人々にある種、断捨離にも似た爽快感も与えているようにも思う。

 圧倒的な勢いで進むコード・カッティングの流れ。来年はさらに「テレビがない居間」が増えることだろう。

デジタルビデオが主流へ テレビ広告費は減少の一路

https://bizseeds.net/articles/416

 アメリカでは多くの消費者が旧来のテレビから、デジタル・プラットフォームに移行し、番組視聴する動きが高まっており、広告やコンテンツへの投資額もデジタルへと移行している。

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この記事の寄稿者

インターエージェンシーLLC代表(ワシントン州シアトル)。デジタル媒体におけるブランディングおよびマーケティング・コンサルタント。クライアントは米大手スポーツ・ブランドや玩具メーカーから、スタートアップ、非営利団体などと幅広く、緻密なデータ分析から導き出すクリエイティブなネットマーケティングのコンサルテーションには定評がある。シアトルのグランジミュージック・シーンを牽引したバンドのベーシストだった過去を持つ。

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