訳が分からないアメリカの不法移民問題

訳が分からないアメリカの不法移民問題

保守とリベラル派の対立が激化し、「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが「アメリカ」を語る。1,100万人以上とされるアメリカの不法移民。トランプ政権発足後、取り締まりが強化されているが……。


トランプ政権が強化する不法移民問題

 トランプ政権の不法移民への対応は、年明け早々かなり騒々しいものになっている。今月10日、アメリカ移民税関捜査局は、首都ワシントンD.C.を含むアメリカ全17州の「セブンイレブン」98店舗に立ち入り調査を実施。不法移民を一斉摘発し、21人の店員が拘束された。これは明らかに「見せしめ」とみて良いだろう。トランプ政権後、不法移民の逮捕や強制送還が強化されてきているが、このような形で一斉摘発されたケースは珍しく、アメリカ国内ではとても大きなニュースになった。

 また同日、トランプ大統領は記者会見の場で、子供の時に親と共に米国に来た不法移民の若者を、強制退去の対象にしない移民救済制度「Deferred Action for Childhood arrivals(通称、DACA)」の復活について言及。復活するのであれば、それは自身の公約である「国境の壁」の建設が条件という姿勢を改めて強調した。

 この制度は前オバマ政権下で2012年に導入されたもので、同年6月の時点で31歳未満を対象にした救済処置だ。しかし、トランプ大統領は昨年9月に、アメリカ国民の雇用と安全を脅かすものとして、DACA廃止方針を打ち出していた。DACAの申請が通ると、いくつかの条件(学校に通う学生、高校を卒業、米軍や沿岸警備隊の名誉除隊を受けているなど)を満たしていることを条件に2年間は強制送還の対象にされない。しかも、その優遇は更新も可能で、これまでに70万人強が資格を取得、50万人強が更新している。トランプ大統領がDACA復活を認めなければ、今後80万人もの若者が強制退去の恐れがあるとして、彼らの人権を擁護しようとするリベラル派の団体が大反発し、非難の声を上げている。

不法移民をかくまうサンクチュアリ

 こうしたことが起きるたびに、この国の「不法移民」に対する考え方は本当に訳が分からないと思う。「法を守らないのだから、違法である」とは簡単にはならない分かりにくさを、どう整理していいのだろうか。

 なかでも、不法移民問題が大きく取り上げられた当初、まったく意味がわからなかったのが、「サンクチュアリ・シティ」の存在だ。アメリカには不法移民らをかくまう保護区、「サンクチュアリ・シティ」という地域が全米に300地域以上もある。要は、違法な形で滞在する外国人が、強制送還されることなく生活を送ることが「まかり通ってしまう」都市のことを指すのだが、これらの都市は不法移民強制送還等に対し、連邦政府の入国管理当局への協力、助力を拒否している。

 都市によって不法滞在者たちが享受できる権利は異なるが、「不法滞在であっても基本的人権を侵してはならない」という名のもとに、市民同様の公共サービスを受けることが可能だ。その中には低所得者向けの医療保険、フードスタンプ(食料補助)、住宅補助、児童福祉、合法移民向けの教育補助、職業訓練などが含まれることもあり、場合によっては運転免許証の交付までも認められてしまう。日本的に考えると、「何で?」とツッコミを入れられそうだが、サンクチュアリ・シティでは、それが現実なのだ。

 真面目に働いている人たちが死に物狂いで納めている高い税金が、この国に不法に滞在している人たちの人権保護のためという名目で使われることに、納得がいかない人は少なくないと思う。特に生活保護ギリギリであるのに、法を遵守して何とか生き抜いている人たちからすれば、この矛盾に納得がいかないのは当然だろう(そして貧富の差が拡大しまくったアメリカには、その境遇にいる人は山ほどいる)。

 また、合法的に移民した人たちにとっても、こうした優遇は理解し難いものがある。不法でもアメリカにいるのだからという理由で手厚く保護の対象になる不法移民がいる一方で、家族の住むアメリカに移住するために、正規ビザの発行を待って長年家族と離れ離れに暮らす人も存在するのだから、本当に不思議だ。

 しかし、不法移民たちにも、彼らなりの言い分がある。今さら国へは帰れない、アメリカだって自分たちのような安い労働力で成り立っているだろう?と。特に、先に述べたDACAについては「自分が例え強制送還になったとしても、子供の権利までは取り上げないでくれ」というような悲痛な訴えは日常的に耳にする。

何が本当の公平なのか?

 想像に容易いだろうが、トランプ政権はサンクチュアリ・シティへの対応にも厳しい。不法移民をかくまう都市に対して、連邦政府からの補助金停止を行う大統領令に署名するなど強硬姿勢を見せている。しかし、サンクチュアリ・シティ側も負けておらず、真っ向から異議を唱え、「大統領が同意しない移民政策をとる都市が、移民政策とは関連性のない連邦政府の補助金を脅かされるのは不当」として、差し止めも相次いだ。この問題、解決の先は一体どこに向かっているのか――今のところそれは、まだ誰にも分からない感じだ。

 今のアメリカには、何が社会の「公平」なのかという基準が存在していない。リベラルと保守の思想的対立があまりに激しいため、そう思うのかもしれないが、連邦法や州法の解釈の違いなども手伝い、この国には例え法があったとしても「これが正解」とはならないことが山積みになっている。だったら何のための法律なのかと、ここでもツッこんでしまうが、それもまた現在のアメリカなのだ。

 今後こうした分かりにくさが、すぐにクリアーになるとは全く思えないし、正解や不正解もないと思うのだが、そうした類の事柄だからこそ、社会へ、自分自身へと問いかけ続ける必要があるのだろうと感じている。

「ドリーマー政策」撤退は違法! 15州の司法長官がトランプ政府を提訴

https://bizseeds.net/articles/380

 今月6日、全米15州とワシントンDC特区の司法長官が、トランプ大統領が「ドリーマー」と呼ばれる幼少時に親と不法入国した若者の在留を認める移民救済制度「DACA」の撤退を決定したことに対し、決定の阻止と同制度の維持を求めて提訴した。

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この記事の寄稿者

青山学院大学卒業。コマーシャルなどの映像コーディネーターを経て1998 年、宝塚歌劇団香港公演の制作に参加。その後プロデューサーに転身。株式会社MJ コンテスほか複数企業の代表として、ネバダ州立大学公認のピラティススタジオ日本進出事業や各種研修事業、2007 年に行われた松任谷由実の 「ユーミン・スペクタクル シャングリラⅢ」をはじめとする国内外の舞台・イベント制作など、さまざまな事業を展開。これまでにベストセラー数冊を含む70以上の書籍、DVD 作品を企画、プロデュース。現在も様々な事業を展開しながら“Go Tiny”(大切なものが、すべて半径5メートル以内にあることに気づこう!の意)というライフスタイルの提案も展開中。

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