バッファロー・ウイングを食べるときには

バッファロー・ウイングを食べるときには

自然を愛し、趣味はハイキングと食べることという著者・デイビッド・アンドリューズが、「ごく普通」のアメリカ人代表として綴る『You Are What You Eat~食は人なり~』。アメリカで「ビールに合うつまみ」といえば、ソースに絡めたバッファロー・ウイング。手がベタベタになることが玉に瑕だが……?


ひとつ10セントだったウイングも今は79セント

 つい先日、大学時代のルームメイトと食事に行った。僕たちは頻繁に連絡を取りあってはいなかったが、フェイスブックで繋がっていた。そして、フェイスブックを通じて、たまたま同じ時期に帰郷することがわかった。何回かテキスト・メッセージをやり取りした後、大学時代によく一緒に時間を過ごした場所で会うことになった。そこは大学近くにある、安いビールとバッファロー・ウイングが専門のバーで、学生の頃は月曜日、大抵そこで夕食を食べた。なぜなら、月曜日はバッファロー・ウイングがいつもよりさらに安く、1つ10セント(約11円)だったからだ。たった2、3ドルでお腹がいっぱいになり、ビールを飲みながら授業や女の子の話をした。「10セント・ウイングナイト」はすごく人気があり、学生たちは安い食べ物とビールに感謝していた。

 僕たちは、学生時代に住んでいた家の前の道で待ち合わせて、バーまで歩いた。その道中、すれ違うほとんどの大学生たちが、歩きながらスマートフォンを使っていることに気がついた。彼らはイヤホンをつけ、スクリーンを見つめながらテキストを打っていた。一緒にいながらも互いの存在には気を留めず、それぞれの携帯に集中している学生のグループがいくつもあった。それを見て僕は、今の大学生活は僕たちの頃とは全く違うんだろうなと思った。僕たちの大学時代は、台所の壁にかかっていた電話をみんなで使っていた。もし友達と会うなら、家を出る前に全ての準備をしておかなければいけなかった。もし誰かと連絡を取りたければ、その人の家に電話をして、その人がいなければメッセージを残した。そして、その人が家に戻るまで折り返しの電話が来ることは期待しなかった。何人かはコンピューターを持っていたが、コンピューター・サイエンスの勉強でもしていない限り、ワープロとして使っていた。もし何かの情報を調べたければ、図書館に行って本を見つけなければいけなかった。現在は、こういった全てのことが、僕たちがポケットに入れて持ち歩いている機器ひとつでできる。スマートフォンがなかった頃、僕たちはどうやって全てのことをこなしていたのか、思い出すことさえ難しかった。

 バーに到着すると、その日は月曜日だったので、結構混んでいた。席について、ビールのピッチャーを頼み、バーテンダーに「10セント・バッファロー・ウイング」はまだあるかと聞いてみた。バーテンダーは笑って、今は月曜日のスペシャルは1つ79セント(約87円)だと教えてくれた。ずいぶん前から、バッファロー・ウイングを10セントでは提供できなくなったそうだ。

 僕らは、ウイングが20個入ったプレートを頼んだ。バーの中を見渡してみると、値段は高くなってしまったが、バッファロー・ウイングは今も大学生に人気があるようだった。

バッファロー・ウイングが人気の理由とは

 何年も前、ほとんどのレストランでは、鶏肉は肉がたっぷりと付いた胸と足の部分を好んで提供していたので、ウイング(羽の部分)は残った。バーは残ったウイングを安く買って安く売ることができた。しかし現在では、バッファロー・ウイング専門のチェーン店が出来たりして需要が増え、値段はかなり上がってしまった。 

 バッファロー・ウイングの名前の由来は、その発祥地であるニューヨークのバッファローという町から来ている。あるバーのオーナーが、発注の間違えによって鶏のウイングが大量に届いてしまった時に考案したといわれている。そのオーナーはウイングを油であげ、溶かしたバターと酢とホットペッパーソースを混ぜたドロッとしたものでコーティングした。このドロッとしたものは現在、バッファロー・ソースとして知られている。オーナーは、このチキンをディップするブルーチーズ・ソースとセロリ・スティックを添えて、お腹をすかせた客に提供したところ大変評判になり、新たにメニューに加えられることになった。以来、バッファロー・ウイングの人気はずっと続き、現在はアメリカのほとんどの街のレストランやバーで提供されている。

 僕たちが頼んだバッファロー・ウイングが、山積みのナプキンと一緒に運ばれてきた。手や周囲を汚さずにウイングを食べるのは、とても難しい。僕たちはウイングを食べながら、大学時代の昔話に花を咲かせた。それぞれが今でも連絡を取っている人たちについての最新情報を交換し、自分の今の仕事や家族についても語った。久しぶりに会い、お互いの近況について話し合うことができて、すごく良かった。僕たちは長い間話していたが、会話も落ち着いてきた頃にふと、それまでとは周囲の様子が異なることに気が付いた。バーは客の会話でうるさかったのだ。周りを見渡してみると、誰もスマートフォンを使っていない。ウイングを食べながら、テキストを打つことはできないからである(携帯がバッファロー・ソースで汚れても良いなら別だが……)。まるで僕たちが大学生だった頃のように、バーの中にいるすべての人が会話をしていた。こんな様子は最近なかなか見られないので、なんだか、とても良いものを見たような気がした。

 僕たちはビールを飲み終え、手を洗って店を出た。これからはもっと頻繁に会うようにしようという意見で一致した。彼は妻に「今から帰る」とテキストで知らせ、僕はアプリでウーバーを頼んで、バーの前で別れた。そして、僕たちは普通の生活に戻った。

アメリカの食卓を通して考える、日本の食文化の素晴らしさ

https://bizseeds.net/articles/578

オーガニックワインや野菜の生産で有名なシアトル近郊、Woodinville。その街を代表する農場「21エーカース」の料理人、サリバン夫妻が語るサステイナブルな食とは? 『地球に優しく世界を食べよう!』。「アメリカの食」は多様性に富んでいる。それを通して見える「日本の食文化」の素晴らしさとは、何であろうか?

食に関する記事 >

この記事の寄稿者

 アメリカ中西部オハイオ州の小さな田舎街に生まれる。オハイオ州立大学に通った後、アメリカ各地を転々と暮らしながら旅をした経験を持つ。これまでに就いた職業は飲食業、ツアーガイド、ミュージシャン、セールスマン、オフィス勤務、物書き、長距離トラック運転手、花屋さんなど多岐に及ぶ。現在はワシントン州にある国際輸送業関連会社に勤務し、平日は会社でデスクワーク、週末は趣味のハイキング、ランニング、写真撮影などに勤しんでいる。料理と食べること、そして自分と異なる文化を知ることが何よりも好き。文化の違いを学ぶだけでなく、共に美しい地球上で生きる者として、その差異の中にも人間として何か共通点を見つけることを常に心掛けている。

関連する投稿


「ライフル」という町の驚愕レストラン

「ライフル」という町の驚愕レストラン

米コロラド州に、変わった地名の町がある。その町の名は、「ライフル」。人口1万人強の小さな町だが、その地名を体現するようなコンセプトのレストランが、にわかに注目を集めている


宅配からシフト? アメリカの「ミール・キット」は店頭販売

宅配からシフト? アメリカの「ミール・キット」は店頭販売

あらかじめレシピに合わせて必要な分量の食材や調味料がセットされた「ミール・キット」。食材を洗ったり、切ったりする必要がなく、同封レシピに沿って調理すれば30分以内で美味しい食事を楽しめるキットは宅配が主流だったが、アメリカでは「ミール・キット」がスーパーマーケットやドラッグストアで販売される方向にシフトしているという。


シアトルでプラスチック製ストロー禁止令 新ストローは植物由来

シアトルでプラスチック製ストロー禁止令 新ストローは植物由来

海に投棄されたプラスチック製のゴミによる環境汚染が大きな問題となるなか、米西海岸ワシントン州シアトル市が7月1日より、市内のすべての飲食店で使い捨てのプラスチック製ストローとプラスチック製スプーンやフォークなどの提供を禁止する措置に踏み切った。


構想から8年! スタイリッシュなロボットが作るグルメバーガー登場 

構想から8年! スタイリッシュなロボットが作るグルメバーガー登場 

アメリカでもグルメな都市として知られるサンフランシスコに、ハイテクなロボティックス技術を駆使し、有名シェフ監修の元にグルメなハンバーガーを提供する店がオープンした。これまでのハンバーガー・ロボットを大きく超えた、その画期的なビジュアルや技術を紹介しよう!


MITの頭脳を結集した「世界一テック」なレストラン

MITの頭脳を結集した「世界一テック」なレストラン

5月3日、ボストンにオープンしたレストラン「SPYCE」。世界一テックなレストランという呼び声も高く、早くも全米で注目の的となっている。何が世界一「テック」だと言われる理由なのだろうか? 






最新の投稿


シアトルのホームレス人口はなぜ減らない?

シアトルのホームレス人口はなぜ減らない?

アメリカ生活20年を過ぎた翻訳家の高柳準が、アメリカの文化とそれにまつわる矛盾を語る「アメリカで暮らしながら想うこと」。今回は多くの画期的な解決策が提示される「ホームレス問題」の中で、「この解決策ってどうなの?」という疑問が沸いてしまうような対策案について、リベラルな著者ならではの視点をまとめてみた。


こんなグロテスクな番組が人気に? ニキビ潰し映像に見入るアメリカ人

こんなグロテスクな番組が人気に? ニキビ潰し映像に見入るアメリカ人

ティーンエイジャーにとって最大の悩みのひとつが、ニキビ。成人でも顔や体にあるニキビや吹き出物に悩む人は多い。そんな中、どんなニキビも見事にスッキリと取り除いてしまう美人皮膚科医の存在がインターネット上で広まり、アメリカでは「その女医がニキビを潰す映像を見ること」がサブカルチャー的な人気を誇っているという。


【11/12追記あり】大統領よりも重要!?「最高判事」でアメリカが変わる

【11/12追記あり】大統領よりも重要!?「最高判事」でアメリカが変わる

保守とリベラル派の対立が激化し「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが語る。中間選挙が終わるや否や、アメリカ中が危惧する問題が勃発。大統領より時に重要で、国を揺るがしかねない最高判事問題とは?


中間選挙の結果がトランプ再選にとって好都合なワケ

中間選挙の結果がトランプ再選にとって好都合なワケ

テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けするコラム、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。先日の米中間選挙で、トランプ率いる共和党は下院の過半数を民主党に取り返されてしまったが、保守派たちは「この方がトランプ再選に向けて好都合だ」と思っているのだ。


成功への選択「週末の体づくり」2018年11月9日~11月15日

成功への選択「週末の体づくり」2018年11月9日~11月15日

ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスが送る「成功への選択」。算命学、数秘術、占星術などをベースにしたオリジナル手法を用いて、あなたが切り開くべき幸運への扉のヒントを毎週アドバイスします。さて、あなたのビジネスを成功に導くのは、どちらの選択肢でしょうか?


アクセスランキング


>>総合人気ランキング