サステイナブルな食生活への移行はゆっくりでいい

サステイナブルな食生活への移行はゆっくりでいい

オーガニック野菜の生産や販売、食育教室などを開催するサステイナブル農場「21エーカース」の料理人で、料理人歴30年以上のベテラン・シェフ、ジャック・サリバン。今回はジャックが、サステイナブルな食生活へのスムーズに移行するための「コツ」を伝授する。


幼い頃から食べ慣れた料理が一番

 私(ジャック)はシェフという仕事柄、日曜に仕事が休みになるとは限らないが、休みの時には姉のジェイミーを誘って、家族でランチに行くことにしている。場所は、私が育ったシアトルのキャピトル・ヒル地区にある、行きつけのメキシカン・レストラン。もう40年近く、値段以外はほとんど変わっていない。

 姉のジェイミーは、ある意味、典型的な「米西海岸に住む白人女性」で、大学生と社会人の二人の息子がいる母親でもある。親族の中には中国人、ベトナム人、私の妻である日本人の麻子と、アジア人の配偶者を持つ者もいる我が家。姉自身も旅慣れていて、若い頃は頻繁に海外旅行にも行っていた国際的な人だが、食に関してはとても消極的で、食べ慣れないものを自ら進んで食べることはない。タイ料理、ベトナム料理、韓国料理など、私と麻子が行きたいレストランは多いが、姉は知らないレストランに行くことは苦手で、ましてや聞きなれない材料が入った料理を楽しむ可能性はほぼゼロ。誘ったところで即却下だ。

 従って毎回、子供の頃からの「いきつけの」メキシカン・レストランに行く。アメリカ人をターゲットにしたレストランなので、チーズや揚げ物などが多く、私が好きな酸味やフレッシュさが美味い本場のメキシコ料理とは程遠い。しかし、慣れ親しんだ味は何か懐かしさを感じるもので、私も麻子も、そのレストランで過ごす休日が気に入っている。席に着くと、私たちには米、砂糖、シナモンなどで作ったメキシコの甘味飲料オルチャタ、姉にはノンシュガーのアイスティーにレモンを大量に添えたものが運ばれてくる。もちろんウェイトレスの女性も私達の好みを知り尽くしている。

 姉はすべてにおいて忠実に、経験やレシピに従って料理をする。「バナナブレッドには、この砂糖が一番」、「このブランドのバターを使ってクッキーを作ったら美味しかった」と、いつも同じブランドの材料を買う生真面目なタイプだ。そんな姉も、数年前から食の安全について自ら学ぶようになり、家族の健康への配慮から、オーガニックの食材を選ぶようになった。それ以来、我々の日曜のランチタイムは、「家族団らん」というよりも食の安全と健康の勉強会と化してしまったが、様々なこだわりを持つ姉が、食材を変えるというのは一大事なのだから仕方がない。

人工甘味料は極力避けた方がいい

 先日のランチのトピックは、人工甘味料について。甘いオルチャタを飲みながら、「こんな十中八九、GMO(遺伝子組換え)の甜菜(てんさい)糖で、精製された白砂糖が入った加工飲料を飲みながら、人工甘味料の話をするのはちょっと気がひけるけど」と笑いながら、麻子とジェイミーは「極力避けた方がいい甘味料」の話をすすめる。避けた方がいい第一位は、ダイエット炭酸飲料に使われている人工甘味料だ。十数年前、私達が現職に就いて食や健康について考えるようになる前のこと、私の母を中心として家族にダイエットブームが広がり、それが体に良くないとは知らずに母、姉、そして麻子は低カロリー、低脂肪、低糖といった加工食品を食べたり、ダイエット・コーラや人工甘味料を使った清涼飲料を飲んでいた。

 「あの人工甘味料の中毒みたいな症状から抜け出るのは大変だった。飲む量を減らすのは大切だけど、ダイエット飲料から普通の炭酸飲料に変えて太ることもなかったし、肌やお腹の調子が以前とは全く違う」とジェイミー。発酵や腸内細菌が昨今の関心事である麻子は、人工甘味料の腸内細菌に対しての影響の話をする。2014年に『ネイチャー』誌に発表された論文によると、複数のマウスと少人数の人間に対して実験を行った結果、人工甘味料が腸内細菌の増殖と機能を阻害し、耐糖能障害を促進していることが分かったという話だ。脳腫瘍との関連も疑われているらしい、昨日読んだ記事には鬱病との関係が記されていたと、まことしやかに話がされる。麻子と私は現職に就いてからというもの、事実と噂の類の話との間で、どのように食について伝えるのがより正確で安全な情報なのかを慎重に考える習慣がついているが、このランチでは家族の誰もが自由に見聞きした話をする。

 そして、いつもの結論。ある日、いきなり自分の身体と環境に優しい食生活に変えることは難しいけれど、まずはそれについて学んで、自分や家族の価値観を決めて、少しずつ変えていくべきだと、全員で合意する。食べるという行為は毎日のことで、その上、とてもプライベートなものだ。「トルティアの原材料のトウモロコシは遺伝子組み換えで、残留農薬の量がすごいかも知れない」、「チキン・エンチラーダの鶏肉は平飼いではないだろう」、「この副菜のズッキーニは遺伝子組み換えかも知れない」と言って、40年近く通っている友達の家のようなレストランに、突然行かなくなるのは難しいということだ。

 もちろん自分の価値観として許容範囲を超えてしまったら仕方がないが、食べるという行為には、それ以外の強い感情がまとわりつく。だからこそ、毎日の食生活が大切なのだ。外出先では家族と一緒に過ごす時間を大切にするために細かいことを気にせず、毎日食べるものに気を遣う。これが麻子と私の決めた価値観だ。

 姉は白砂糖を、オーガニックのきび砂糖に変えたことで、料理やケーキに色がついたり、出来が違ったりと未だに試行錯誤を続けているが、私達が少し技術的なアドバイスをすると簡単に解決する場合もある。将来的にみんなの食生活が少しずつサステイナブルになるように、我が家のメキシカン・レストランでのランチ兼食の勉強会はこれからも続いていくだろう。

アメリカ上流・中産階級層の食へのこだわり

https://bizseeds.net/articles/436

 今回はアメリカの“上中産階級”の人々の食に対するこだわりについて話そう。複数の大手テック企業が軒を連ねるシアトルでは、2015年の市民の中間所得収入が80万ドル(約900万円)、住宅購入中間価格は700万ドル(約7,900万円)という異常事態が起きている。

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この記事の寄稿者

麻子・サリバン
東京出身。1980年代後半に渡米。大学卒業後、10数年にわたり国際営業の仕事で世界中を旅する。シアトルでの学生時代に知り合った料理人のジャックと2003年に結婚を機に、「食」に関わる仕事をしようと決意。Le Cordon Bleu College of Culinary Art で学んだのち、レストランやケータリング会社での勤務を経て、2012年に21 Acres へ。現在はThe 21 Acres Center for Local Food & Sustainable Livingキッチン・チームの一員。

ジャック・サリバン
シアトル出身。料理人歴30年以上のベテランシェフ。12歳の時にレストランで皿洗いの手伝いを始めてから料理の楽しさに目覚め、シアトル・セントラル・カレッジにて製パン・製菓を学び、その後、Le Cordon Bleu College of Culinary Artへ入学。数々のレストランでの勤務経験を経て、2015年から現職。夫婦ともに料理本収集とマーケット巡りが趣味。

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