アメリカにおけるアイスホッケーの黒歴史

アメリカにおけるアイスホッケーの黒歴史

アイスホッケーの在米コーチである著者が、アメリカのプロスポーツ・ビジネスの構造や考え方、ユース・スポーツの育成、アプローチ方法などを情報満載でお届けする、若林弘紀のコラム『スポーツで知るアメリカ』。様々なドラマを生んだ平昌オリンピックが閉会。アイスホッケー男子はロシア個人参加チーム、女子はアメリカが優勝したが……。


NHL選手が不参加のアメリカ男子チームは敗退

 平昌オリンピックのアイスホッケー男子は、ロシア個人参加チームが、大躍進で決勝進出したドイツを延長戦の末に下して優勝。NHL選手の不参加で約250人のトップ・プレーヤーを除くチーム編成を強いられたアメリカ男子は、予選ラウンドから苦戦し、準々決勝で姿を消した。一方、女子はアメリカが積年のライバルであるカナダをシュートアウト(サッカーのPSに相当)で下し、1998年の長野オリンピック以来20年ぶりの金メダルを獲得した。男女で完全に明暗が分かれる結果であった。

 アメリカのホッケーは1980年のレークプラシッド大会で、NCAAの大学生選抜チームが当時、世界最強だったソ連を決勝ラウンドで下して優勝した「ミラクル・オン・アイス」が、何度も映画化されるほどの歴史的勝利として知られている。しかし、男子は「ミラクル」以降のオリンピックでは低迷し、NHL選手が参加できるようになった1998以降、2002年と2010年に銀メダルを獲得した以外は、4位から8位という成績だった。

アメリカ男子アイスホッケーの黒歴史とは

 アメリカ男子ホッケーにはオリンピックをめぐる「黒歴史」と言える事件もあった。1998年の長野大会では、準々決勝で敗退した直後に、荒れた一部の選手が選手村宿舎の家具等を破損する行為があったことが報道され、後味の悪い大会となった。また、遡ること1948年のサンモリッツ大会では、 アメリカ・ホッケー協会(AHA)が アマチュア・スポーツ連合(AAU)とアマチュア規定を巡って対立。それぞれの団体が代表チームを派遣し、「どちらのアメリカ代表ホッケーチームをプレーさせるべきか」を巡り、大会は大混乱した。結局、アイスホッケーを公開競技に降格させることで収拾が図られ、 AHAをアメリカ代表として競技に参加させる代わりに、アメリカ代表の試合記録は全て無効試合として抹消された。

 60年を経て、現在の統括団体USA HockeyとAAUは再び対立し、それぞれのユースリーグ、ジュニアリーグを運営している。法的に両者の活動を規制し合うことは出来ないため、事実上の共存関係ではあるが、AAUはUSA Hockeyが推し進めるアメリカ育成モデル(American Development Model)と完全に異なる理念での育成を進めている。

 そもそも登録人口55万人の大所帯では、組織改革の徹底は容易ではない。しかも誰もが自分の意見を持ち、自分の理想のために新しい組織を作って既存の団体と競合する権利を行使する。これもフリーダムの国アメリカの一面であり、オリンピック等、国際舞台での安定した成功を収めるのは容易ではない。

 また、アメリカはポピュリズムの権化でもあり、金メダル級の偉業を成し遂げても、ビジネスとしての価値は大衆の関心の優先順位によって決定されてしまう。ホッケーは全米にプロチームが拡大したが、未だに野球やフットボールと比べると、はるかに地域性が強い北国のスポーツだ。20年ぶりに覇権奪回した女子ホッケーの決勝戦は、延長戦に入るまで全国放送の地上波で生中継されなかった。冬季オリンピックの大トリとして行われた男子アイスホッケー決勝に至っては、全国放送で生中継されなかった。日本から見れば夢のような環境であるアメリカのホッケーも、決して理想郷ではなく、異なる理念と権利を求める人々が日々戦い続ける世界なのだ。

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この記事の寄稿者

 筑波大学大学院体育科学研究科修了。USA Hockeyコーチ・ライセンスの最高位、Level 5(マスターコーチ)を保有。1997年に北米に渡り、日本人として初めてカナダのAAAレベルとアメリカNCAA(全米大学体育協会)でコーチを務める。
 帰国後、アジアリーグ日光アイスバックスのテクニカル・コーチを経て、2006〜12年は北米、2012〜13年はトルコ、2013〜15年は香港で男女代表チームを指導。
 2015年に米国へ移住し、NHLアリゾナ・コヨーテズのユースチーム他、世界各地のホッケーキャンプで指導。現場での指導の他、競技人口や競技施設を効率的に配置し、最適化された競技環境を構築する「競技構造」という概念を考案、研究している。





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