全米ライフル協会は人命より銃製造業者の利益を重視する悪徳組織か?

全米ライフル協会は人命より銃製造業者の利益を重視する悪徳組織か?

多様なアメリカでは暮らす地域によってすべてが異なる。テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守の声をお届けするコラム、「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回はアメリカで銃乱射事件が起きるたびに問題視される「全米ライフル協会」(NRA)について、保守派の意見を述べる。


本当のところ、全米ライフル協会(NRA)とは何なのか?

 乱射事件が起きて銃規制が話題になる度に、アメリカのリベラル派のコメンテイターたちは「NRAのせいで、また人が殺された!」、「銃規制ができないのはNRAのせいなので、NRAはテロ組織も同然だ!」と、NRAを糾弾するコメントを連発している。

 2月14日に起きたフロリダの高校乱射事件の犯人、ニコラス・クルーズは精神不安定で、隣人や知人などが何十回も警察やFBIに「彼はいつ爆発するか分からない危険人物だ」と通報していた。もし警察かFBIが然るべき行動を取っていたら、この事件を未然に防げたはずだ。しかし、アメリカの大手メディアは、警察やFBIの不手際は大目に見て、NRAバッシングを続けている。

 アメリカの大手メディアはNRAを銃ロビー(gun lobby、銃支持派圧力団体)、日本のメディアもNRAのことを「豊富な資金と政治力を抱えた銃規制に反対する圧力団体」と表しており、多くのアメリカ人、そしてほとんどの日本人がNRAは銃製造・販売業者の回し者だと思っている。

 しかし実際には、NRAは合衆国憲法補正第2条で制定されている銃所持・携帯権を信じる約500万人の一般人の集団であり、銃関連業者の利益代弁組織ではない。もちろん、銃がなければ銃を所持・携帯することができないので、NRAと銃製造業・販売業者の利害関係は一致する部分が多いが、NRAのメンバーは銃関連業界の利益というアングルからではなく、純粋に「権利章典(補正第1条から第10条)を守りたい」という一心から銃規制に反対している。NRAのメンバーたちは、「我々は憲法順守を目的とする正義の組織だ」という自負も強い。そのためリベラルなエリートと大手メディアがACLU(アメリカ自由人権協会:補正第1条で定められた言論・表現の自由を守る団体)のことは正義の味方として褒め称えているのに、NRAは悪の権化として常にバッシングしているという現状に並々ならぬ不満を抱いている。

銃所持・携帯権のなし崩しを恐れる支持派

 NRAがマシンガン(既に販売・所持が禁じられている)以外の銃の所持・携帯を必死で守ろうとしている理由は、カトリック教徒たちが展示を阻止しようとした「The Holy Virgin Mary」(象の糞で描いた聖母マリアの絵)の展示権をACLUが守った理由と全く同じである。「あまりにも俗悪だから”表現の自由”の範疇には入らない」と、ひとつ例外を作ってしまうと、「象の糞の絵が表現の自由ではないのなら、トランプのそっくりさんを殺すスヌープ・ドッグのミュージック・ビデオもヘイト・クライムとして取り締まるべきでは?」と、線引きの基準が薄まって、なし崩し的に表現の自由という権利が崩壊してしまうだろう。同様に補正第2条支持派は、ひとつの種類の銃が禁じられると、「あの銃を禁じるなら、この銃も禁じるべき」と、銃所持・携帯権が徐々に浸食されてしまうに違いない、と恐れているわけだ。

 最後に、もうひとつ強調しておきたいことがある。それは、銃所持者の多くが銃所持・携帯権を独立宣言に出てくる「創造主(神)から与えられた不可侵の権利」だと考えていることだ。独立宣言には、「すべての人間は生まれながらに平等であり、生命、自由、幸福の追求を含む不可侵の権利を創造主から与えられている」と記されている。

 銃に頼って西部開拓をした人々の子孫が住むテキサス州やコロラド州の田舎では、コヨーテやオオカミから家畜を守り、悪者から家族を守るためには銃が絶対に必要だ。そのため彼等は、銃は生命・自由・幸福の追求のために不可欠なもの、つまり、銃所持・携帯権は神から与えられた不可侵の権利であると信じているのである。

 トランプ大統領も含め、多くのアメリカ人が「共和党政治家はNRAを恐れている」と思っており、実際に選挙の度に共和党候補や田舎の民主党候補は自分がNRAの敵ではないことを強調している。しかし、それはNRAが政治家を脅迫する悪の組織だからではなく、両党の候補者が自分の支持層・選挙区の最大の票田が、「補正第2条を保持し、神から与えられた不可侵の権利を守るために、雨が降っても槍が降っても必ず投票所に向かう人々だ」ということを知っていて、共和党候補者は自分自身も補正第2条を支持しているからなのだ。

補正第2条に関しての詳しい説明は、「銃所持者の本音」へ。

「銃乱射事件」に関する記事

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

関連する投稿


「ライフル」という町の驚愕レストラン

「ライフル」という町の驚愕レストラン

米コロラド州に、変わった地名の町がある。その町の名は、「ライフル」。人口1万人強の小さな町だが、その地名を体現するようなコンセプトのレストランが、にわかに注目を集めている


教室にシェルターの設置が加速する?

教室にシェルターの設置が加速する?

今年2月、17人もの犠牲者を出したフロリダ州パークランドの高校における銃乱射事件。アメリカの教育現場ではこうした悲劇を防ぐための解決策が模索されている。そんな中でも注目の対策は?


銃を規制しても問題は解決しない

銃を規制しても問題は解決しない

NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などを、ジョーンズ千穂がアーカンソー州より徹底紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。今回は アメリカの世論を二分する銃規制問題に対して、銃を所持している一般人のひとりとしての意見を述べる。


【Red vs. Blue】トランプ大統領「教師が武器を持てば犯罪の抑止力になる」と発言

【Red vs. Blue】トランプ大統領「教師が武器を持てば犯罪の抑止力になる」と発言

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は、両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された記事に各派のアメリカ人が各々の見解を披露する。今回は高校銃乱射事件を受けて、トランプ大統領が「教師が武器を持てば銃犯罪の抑止力になる」発言したことについて。


銃乱射事件生存者たちの「マトモ」な訴えが、マトモに伝わらない国

銃乱射事件生存者たちの「マトモ」な訴えが、マトモに伝わらない国

圧倒的にリベラル派が多く住むカルフォルニア州。同州在住で、トランプ大統領に投票しなかったアメリカ人のひとりである著者が語る、今のアメリカのリアル。今回は先月、フロリダの高校で起きた銃乱射事件後の米国内のリアクションについて、著者がリベラル派としての見解を述べる。






最新の投稿


成功への選択「とまどい」2018年10月19日~10月25日

成功への選択「とまどい」2018年10月19日~10月25日

ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスが送る「成功への選択」。算命学、数秘術、占星術などをベースにしたオリジナル手法を用いて、あなたが切り開くべき幸運への扉のヒントを毎週アドバイスします。さて、あなたのビジネスを成功に導くのは、どちらの選択肢でしょうか?


米連邦最高裁の均衡が崩れた危険なアメリカ

米連邦最高裁の均衡が崩れた危険なアメリカ

圧倒的にリベラル派が多く住むカルフォルニア州。同州在住でトランプ大統領に投票しなかったアメリカ人のひとりである著者が語る、今のアメリカのリアル。今回は、トランプ大統領が指名した米連邦最高裁の新しい判事が、多くの米国民が反対する中でも就任したことについて、リベラル派の著者がリベラルの視点から意見する。


プロジェクト「;」 メッセージを込めたセミコロンとは?

プロジェクト「;」 メッセージを込めたセミコロンとは?

アメリカで数年前からじわじわと流行りはじめた「;」のタトゥー。この二つの点からなるマークは英語の句読点のひとつ、「セミコロン」(semicolon)だ。このマークを身体に彫っている人が増えているが、このデザインが人気なのではなく、「セミコロンを身体に彫ること」がメッセージなのだという。


キッズがおねだりする洋服の秘密

キッズがおねだりする洋服の秘密

最近、アメリカの子供たちの間で爆発的な人気を集めている洋服がある。ロサンゼルスのメーカーが販売している「Cubcoats」だ。可愛くて便利な上着の全容とは?


召しませ、完璧なステーキ

召しませ、完璧なステーキ

アメリカ人には、「肉好き」が多い。厚みのあるステーキは、アメリカ料理の定番のひとつだが、ステーキの調理は簡単のように見えて実は難しい。焼き加減によって硬くなり過ぎたり、生焼けになったりと、上手く肉が焼けない悩みを持つ人は多い。そんな悩める人々の救世主となるグッズとは?


アクセスランキング


>>総合人気ランキング