テキサス人はなぜダウン症の胎児中絶に反対するのか?

テキサス人はなぜダウン症の胎児中絶に反対するのか?

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今年の「ガーバー・ベイビー」はダウン症のルーカス君

 テキサスの多くの教会では、毎年「World Down Syndrome Day」(世界ダウン症デー)である3月21日前後に必ず、牧師たちがダウン症の胎児中絶の反対を唱える説教をする。

 これは年中行事と化しており、私の隣人が通っている教会では毎年3月にダウン症の子どもたちが行う演劇を披露したり、ダウン症の子供を持つ親のスピーチをフィーチャーするなどして、ダウン症に関する認知度を高めるための催しを行う。

 今年は2月に、ベビー・フードの最大手であるガーバー社が、ダウン症の幼児を“Gerber Baby”(ガーバー社の顔となる赤ちゃん)の優勝者に選び、3月9日にワシントン・ポスト紙が、「低IQの子どもを望まない女性がダウン症の赤ん坊を中絶するのは当然の権利だ」という記事を掲載したため、いつになくダウン症が大きな話題になっていた。さらに、3月17日にはダウン症の男性、ジョン・フランクリン・スティーヴンスさんが国連で感動的な演説をしたため、多くの教会にて牧師たちはいつもより長い時間を割いて熱弁をふるった。

中絶ではなく、養子縁組を

 保守派キリスト教徒は、「胎児も神の子である」と信じているため、中絶は人殺し、つまり神の道に背く罪だと考える。特にダウン症胎児の中絶は、「最も弱き者を救うことこそがキリストの道だ」と教えられている彼等にとって、決して許されてはならない大罪なのである。

 また、彼等は医学・科学がさらに進歩して、盲目かどうか、青い目かどうか、癌の遺伝子を持っているかどうかなどが羊水穿刺検査で分かるようになるであろう近未来を見据え、「ダウン症胎児の中絶を許したら、なし崩し的にあらゆる中絶が正当化されてしまうだろう」と恐れている。どの胎児に「生まれる権利を与えるか」という選択権を親が持つのは、人間が神のまねごとをする言語道断な神の冒涜であると彼等は考えているからだ。

 保守派キリスト教徒は、前述した通り「最も弱き者を救うことこそがキリストの道だ」と信じているため、例えばレイプされた女性が妊娠して胎児がダウン症だと判明した場合などは、犠牲者の女性、つまり「弱き者」に同情を示す。しかし、このような特殊なケース以外は、「自分の好みの赤ん坊じゃないから中絶する」という行為は、神を恐れぬ人間の身勝手な行為だと考えている。

 とはいえ、彼等はダウン症の中絶を望む女性を蔑視しているわけではなく、彼女たちに救いの手を差し伸べることが神の道だと信じ、教会やダウン症サポート・グループを通じて、ダウン症胎児の養子縁組促進運動を積極的に行っている。シングル・マザーや核家族が多い都会のライフ・スタイルと異なり、テキサス人の多くは昔ながらのキリスト教の価値観に固執し、家族の絆を重んじているため、親類縁者が近くに住み、皆で助け合いながら生きている。そのため「私が死んだらこの子の面倒を誰が見てくれるだろうか」という不安にさいなまれることなく、ダウン症の子どもを育てることができるのだ。

 彼等は、ダウン症胎児の中絶を望むリベラル派の人々に、「テキサスには受け入れ先がたくさんあるから、養子という選択肢を選んで欲しい」と呼びかけているが、両者の間の溝はあまりにも深すぎるため、彼等の声はリベラル派には届かないであろう。

ユーモアのセンス溢れるスティーヴンスさんの感動的な演説は、こちら。

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この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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