テキサス人は、なぜオノ・ヨーコが嫌いなのか?

テキサス人は、なぜオノ・ヨーコが嫌いなのか?

テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けするコラム、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は、ビートルズの故ジョン・レノン氏の未亡人オノ・ヨーコ氏が、平和のために新作アルバムを発表するニュースを南部テキサス人はどう捉えているか、というレポートだ。


彼女は平和のリーダーなのか、それとも偽善者なのか?

 先月24日、「オノ・ヨーコが世界平和をもたらすために、ニュー・アルバムを発表!」というニュースが流れたとき、多くのテキサス人はあきれ顔で「冗談でしょ?」と言っていた。

 テキサス人のみならず、保守派の人々の多くは、イスラム国のテロやアサド政権の蛮行は軍事力で封じ込めるしかなく、ロシアや北朝鮮との外交交渉はアメリカの圧倒的な兵力の後ろ盾があって初めて成立する、と考えている。そのため、軍隊に反対して言葉や歌だけで、つまり「口先だけで平和を達成できる」と信じているリベラル派の考えは甘すぎる、と思っている人が多い。

 たとえば、2014年にイスラム教過激派組織、ボコ・ハラムが約270人の女子高生を拉致した際、オバマ政権は軍事行動を取らず、その代わりにオバマ夫人やセレブたちが“Bring Back Our Girls”(女の子たちを連れ戻そう と書いた紙を持ったセルフィーをツイッターにアップするキャンペーンを行う)だけに留まったときも、保守派たちは呆れかえっていた。

 当時、軍事行動を控えたオバマ政権をリベラル派は絶賛していた。一方で保守派は、そもそもアメリカでリベラル派が好き勝手なことを言える言論の自由を謳歌できるのは、「第二次世界大戦で連合軍がナチスを負かし、現在も兵士たちがテロリストなどからアメリカを守っているからだ」と考えている。それ故に、オノ・ヨーコに代表されるアンチ兵力に根ざした平和主義者は、「軍人の犠牲の上にあぐらをかき、軍隊を罵倒してきれいごとを言っている偽善者」であると考えるのである。

テキサスの保守派にとっての「イマジン」の歌詞

 実はテキサス人の多くは、世界的に有名なジョン・レノンの代表曲「イマジン」も、神を冒涜したひどい歌だと思っている。

 「天国も地獄もなく誰もが今日を生きている、と想像してごらん。国も宗教もなく、所有物もなく誰もが世界を分かち合うと想像してごらん。みんながそういう世界を想像できれば世界はひとつになる」という主旨のこの歌は、ほとんどの人がユートピアを描いた名曲だと思うことだろう。しかし、キリスト教は、「神の道(善)を選んだ信者が天国に行き、悪魔に誘惑された者は地獄に堕ちる」という2局対立で成り立っている宗教だ。そして多くのキリスト教徒は、天国に入れるというインセンティヴと、地獄に堕ちるという罰がなければ人は精進できないと信じているため、キリスト教保守派の総本山であるテキサスの人々にとっては、宗教も国家も所有物もない世界を謳歌したこの歌詞は、神の存在を否定して不法移民流入と共産主義を奨励した恐ろしい地獄絵図としか思えないのだ。

 また、テキサス人は、所有物(物欲)を否定して皆が世界を分かち合うことを薦めたジョン・レノンの未亡人が、彼の莫大な遺産をパブリックと分かち合うことなく、ニューヨークの高級マンションで裕福な暮らしをしながら、中産階級や低所得者階級の人々に説教をする姿を見て、「いかにもリベラルらしい、愚の骨頂だ」と冷笑している。オノ・ヨーコが、もし本当に「イマジン」の歌詞の世界を信じているならば、自ら率先してアッシジのフランチェスコのように「富を捨て去って托鉢僧になるべきだ」と思うからである。

 つまり、テキサス人にとってオノ・ヨーコは、自分は優雅な暮らしをしているのに他人には富の再分配を説き、兵士たちの命の犠牲の上に成り立っている平和な世界において軍人を否定し、不法移民の被害に遭った人々を安全な高見の邸宅から見下ろしている「エリートなリベラル派の偽善を象徴する、がまんならない存在」なのである。

  米南部の保守派と海岸沿いに住むリベラル派では有名な曲の歌詞ひとつとっても、捉え方や解釈が異なるという、ひとつのよい例だといえるだろう。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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