米中間選挙:保守派がSNSによる“選挙介入”を恐れる理由

米中間選挙:保守派がSNSによる“選挙介入”を恐れる理由

テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けするコラム、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は、保守派たちはグーグルなどのリベラル派IT企業やソーシャル・メディアによる“選挙介入”を恐れている、という現地からの声をレポートする。


ヒラリーと入力するだけで褒めるフレーズが出る?

 2016年の大統領選の最中、保守派のラジオでは、「グーグルがヒラリーに有利な情報を優先して、不利な情報を隠している」ということが大きな話題になった(グーグルの元CEOであるエリック・シュミット氏はオバマ政権の大統領顧問だった)。

 これを聞いたリスナーたちは、グーグルの検索欄に「Hillary Clinton is」(ヒラリー・クリントンは)と入力すると、オートコンプリートで「winning 」(勝っている)、「awesome」(すばらしい)というフレーズが自動的に続くが、同じことをヤフーで検索すると「a liar」(嘘つき)、「 a criminal」(犯罪者)、 「evil」(邪悪)、 「a crook」(詐欺師)、「 corrupt」(腐敗している)などの単語が出てくることを目の当たりにして、グーグルの検索操作を恐れるようになった。当時のグーグルの検索結果の一部はここで見ることができる。政治的には中立な技術関連情報サイト、ギズモードも、「フェイスブックは保守派のニュースサイトをトレンドのランクから外し、人気の程度にかかわらずリベラルなニュースを高いランクに入れている」というフェイスブック元社員たちの内部告発を掲載した。

 2017年8月にピュー研究所が行った世論調査では、アメリカ人の67%がソーシャル・メディアからニュースを得ているという結果が出た。また、グーグルやフェイスブックの影響力を研究しているハーヴァード大学のロバート・エプスタイン教授は、「グーグルとフェイスブックは1200万票動かせる」と指摘しているため、保守派はアンチ保守派のソーシャル・メディアが中間選挙に与える影響を本気で恐れている。

実際にあったとされる保守派のSNS被害

 これまでにあったソーシャル・メディアにおける保守派抑圧の代表例といわれるものを、いくつか紹介しよう。

●2017年、フェイスブックやグーグルなどがアルゴリズムを変更した後、トランプの減税や不法移民対策に好意的な保守派のニュースサイトや、保守派の意見を伝える団体のサイトのクリック数が約9割激減した。


●グーグル傘下のYouTubeは、ヒラリー支持者のハーヴァード大学の法学者、アラン・ダーショウィッツ教授がイスラエル生存権を説明しているビデオを、ポルノと同じ制限枠に移した

●2017年、フェイスブックはトランプ支持者の黒人姉妹、ダイアモンド&シルクのページを「Unsafe to the community」(コミュニティにとって危険)というカテゴリーに移し、YouTubeは二人のビデオへのCMを禁じたため、訪問者が激減。2018年4月に開かれた上院公聴会で姉妹が証言した後、フェイスブック社のザッカーバーグCEOが「二人のケースはenforcement error 執行上のエラーだった」と認め、YouTubeも宣伝を戻した。

●今年5月、カリフォルニア州の予備選の直前、グーグルで「California Republican Party」(カリフォルニア州共和党)と検索すると、画面の右側に出るグーグルの情報パネルに、「カリフォルニア州共和党のイデオロギー:ナチズム」というウィキペディアからの抜粋が掲載された。ウィキペディアもリベラルな編集者が多いと言われている。

●今夏の中間選挙予備選前に、複数の共和党政治家の宣伝や発言がツイッターでシャドウ・バン(ツイートした本人には見えるがフォロワーには見えない措置)に遭った。

●今年8月中旬以降、トランプ支持者の声を伝えるニューヨーク・ポスト紙のフェイスブックのページが迷惑広告と同じ扱いを受けている。

●8月下旬、リベラル派に愛されているナショナル公共ラジオ局(NPR)の「2015年からの1年間で240件の学校乱射事件があったというデータは大嘘だった」という記事が、フェイスブックから削除された。

●ツイッターやYouTubeは保守派コメンテイター、クリスティーナ・ホフ・サマーズの「男女の生物学的差異を認めることは悪いことではない」という意見はヘイト・スピーチとして検閲・削除したが、イスラム教のオナー・キリング(婚前交渉をした女性や同性愛者を一族の名誉のために家族が殺す行為)を支持する意見は「宗教の自由」と認めて取り締まっていない。

●ツイッターは、ニューヨーク・タイムズ紙の編集員である韓国系アメリカ人女性の白人バッシングのツイート( Cancel White People 「白人を抹殺しろ」など)は許可しているが、カニエ・ウェストに支持されていることで知られる保守派の黒人女性が、white(白人) をJewish(ユダヤ人)に置き換えたパロディ・ツイートをしたところ、即座に出入り禁止になった。ツイッターCEOもツイッターが左傾であることを認めている。

 これらは、有名人や著名な組織が言論統制にあったケースの一部であり、文字通り氷山の一角に過ぎない。保守派の一般人がソーシャル・メディアから閉め出されても話題にならないため、実際どれだけの保守派が被害に遭っているのか、全体像はつかめない。しかし、保守派の人々の間では「友だちや自分がフォローしていた一般人のツイートやサイトが、ある日いきなり消えてしまった」ということも体験しているため、たとえ大手メディアで話題にならなくても、「ソーシャル・メディアが保守派を抑圧しているのは事実だ」と実感している。そして、「グーグルは旧ソ連のプラウダのような民主党の宣伝塔」だと、左傾ソーシャル・メディアの肥大化した影響力に並々ならぬ恐れを抱いているのである。

 グーグル、フェイスブック、ツイッター、そしてYouTubeも、保守派抑圧の原因のひとつとして「多くのユーザーが、ヘイト・スピーチだと文句を言ったため」ということを挙げている。リベラル派は自分たちと違う意見を全てヘイト・スピーチとみなして抹殺しようとしているようだが、保守派は「ヘイト・スピーチも言論の自由で守られている」と信じているため、リベラル派のヘイト・スピーチに文句を言わない。これも、保守派の言論の自由のみが抑圧される要因のひとつだろう。

 ちなみに、保守派の意見を伝える団体プレイガーUは、グーグルとYouTubeを相手取った訴訟を起こしたが、今年3月、カリフォルニア州の裁判所が「公の機関は言論の自由を守る義務があるが、私立機関にはその義務はない」という判決を下した。プレイガーUは第9上訴裁判所(アメリカで最もリベラルな裁判所)に訴えているが、恐らく最高裁へ行くまで、この問題は解決しないだろう。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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