「投票せよ!」米中間選挙前に沈黙を破ったオバマ前大統領

「投票せよ!」米中間選挙前に沈黙を破ったオバマ前大統領

圧倒的にリベラル派が多く住むカルフォルニア州。同州在住で、トランプ大統領に投票しなかったアメリカ人のひとりである著者が語る、今のアメリカのリアル。今回は政権交代後、公式発言を控えてきたオバマ前大統領が久々に披露した演説について。前大統領の演説から今のアメリカに必要なことや、再生に向けて著者が感じたこととは……。


民主主義の脅威は、国民が真剣に投票しなくなったときに起こる

 オバマ前大統領が先日イリノイ大学で演説を行い、再び世間の注目を集めた。これは11月に控えた米中間選挙に向けて有権者に対する最初のメッセージであり、オバマ氏がアメリカの有権者に伝えたいことの手掛かりが得られるものだった。

オバマ元大統領のスピーチ全編の映像はこちら。

 オバマ前大統領は民主党員だ。よって彼は有権者が民主党に投票するように働きかける。この演説における彼のメッセージは、これまで彼がいつも言ってきたことと同様、首尾一貫していた。「アメリカ国民は、自分たちのリーダーを選ぶことができる物凄いパワーを持っている。しかし、それは同時に大きな責任でもある。アメリカの民主主義にとって最も大きな脅威は、アメリカ国民が無関心になり、世を拗ね、彼らの義務である投票を真剣に捉えることを怠った時に起こる」。

 そして演説の中で彼は、「アメリカの物語」を語った。進歩の話、互いの違いを乗り越えるために人々が共に努力する話、私たち自身と社会をより良くすることを目指す話………。平等、機会均等、自由というアメリカの理想に熱心に取り組むリーダーを選ぶために、投票という力を使って政治に参加する普通のアメリカ人の話をして、このような理想をアメリカだけでなく、世界中にどのように広げていくべきかを語ったのだ。

 オバマ前大統領は、アメリカのリーダーシップが世界の中において完璧なわけではなく、その進歩は断続的で難しかったと言った。そして国民が機会均等というアメリカの理想に近づくために一致団結しようとする度に、アメリカ人を怒らせて分断させ、国民を皮肉な気分にさせることを目的とした権力や特権階級による強い抵抗が現れたことを説明した。国民が不満を持つ状態が維持できれば、特権階級者は権力や特権を持ち続けられる可能性が高まるからだ。しかし、分断と恨みによる政治は以前から常にアメリカに存在しており、それはひとつの政党や他政党に限定されているわけではないことも慎重に指摘した。オバマ前大統領は「 共和党のリーダーシップにより、民主党の抵抗を乗り越えてアメリカが偉大に進歩した過去例」を挙げ、同様に「共和党の抵抗を乗り越え、民主党のリーダーシップによって偉大な進歩をした例」も挙げて説明した。

トランプ大統領はアメリカの「問題」ではなく、「症状」である

 演説の半ばで、オバマ前大統領はようやく「ドナルド・トランプ」という名前を口にし、「トランプはアメリカの問題ではなく、むしろ症状だ」と言った。ドナルド・トランプは、長い年月に渡って政治家たちが煽り立ててきた憤りを活用しているだけだと。分断と怒りの政治は近年、残念ながら共和党で受け入れられ、侵食している。彼は「今日の共和党の構想は保守的でも正常でもなく、過激だ」とまとめ、「この国が傷ついているときも、大事なことは私たちの力を守ることと、それを後押しする者だ」と話した。

 オバマ前大統領はアメリカ国民へ向けて、現状の問題はこれまでアメリカが苦境に立った時に常にしてきたことと同様、解決するのはシンプルだと言った。アメリカ国民は来たる中間選挙において、自らが所有する投票の力を利用してアメリカの政治を健全なものに戻すことができるのだと。

 それは圧倒的な説得力のある神々しい演説だった。歴史を理解しているアメリカ大統領(オバマ氏は前大統領だが)が、複雑な内容を国民に明確に伝えるために完璧な文章を駆使して、いろいろな人や事象にも敬意を表しながら包括的なメッセージを伝えているのを聞くのは、素直に気分が良かった。自分の自尊心を満足させることよりも、世の中にはもっと大切な目的があり、その実現を目指すアメリカ大統領とは、どんな姿だったかを思い出させてくれる演説は、説明し難いほどすがすがしかった。

 このオバマ前大統領の演説に対して意見を求められたドナルド・トランプが言ったことは、「演説を聞こうとしたが、眠ってしまった」だった。これが、現大統領が前大統領の演説に向けるコメントだろうか。

  アメリカは今、国の歴史の岐路に立っている。そして、アメリカ国民はひとつの選択を突き付けられている。トランプという低能なリーダーに立ち向かえる政治家を選ぶために活動して投票をするのか、もしくは投票日には家にこもり、共和党が力をさらに強固にし、国民がこれまで支持してきた多くのことを壊していくことを許し、世界中の同盟国を失い、民主主義が機能するための重要な制度を弱体化させるのを見物するのか? アメリカ国民が有権者の責任である「この選挙に投票する」という行動がとれなければ、そのときは偉大なアメリカの成果にも終止符が打たれるかもしれない。

この記事の寄稿者

1974年生まれ。文学書とコーヒーを愛するコラムニスト。書籍に関しては幅広く読むが、コーヒーに関しては、豆の原産地から流通や焙煎の過程までを詳細にフォローし、納得したものだけを味わうことにしている。温厚で穏やかな性格であるものの、コーヒー豆へのこだわりと同様に理路整然としない、あるいは納得できない社会の動きに対しては、牙をむく活動派的な一面もある。妻と犬一匹と共に、カリフォルニア州オークランド在住。

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