アメリカにおける教員の年収引き上げ、払うのは誰?

アメリカにおける教員の年収引き上げ、払うのは誰?

アメリカ生活も20年を過ぎた翻訳家の高柳準が、アメリカの文化とそれにまつわる矛盾を語る「アメリカで暮らしながら想うこと」。連載初回では、「公立の教員の給料を支払うのは、なんと私だった」という当然でありながら、別の意味で驚愕的な現実に対面した著者の視点をまとめた。


シアトルの教員の年収、低すぎる? 高すぎる?

 今年 8 月、アメリカの新学期を目前にワシントン州の教職員が給料の値上げを訴え、ストライキを起こした。プラカードを掲げて集合した彼らの姿や、道行く車が賛成のクラクションを鳴らしていく様子などを地元ニュースは日々熱心に報道。結果として大方の学区がこのストライキに応え、新学期はほぼ予定通りにスタートした。

職種が何であれ、プロフェッショナルがそのスキルに対して最大限の報酬を得ることができるのであれば、それに越したことはない。今年 9 月に『シアトル・タイムス』紙が掲載した「昨年のシアトルの平均年収」は $121,000だった。アメリカでは年収が少ないことを例えて、「教員の年収くらいしかないから」と言うことがあるが、Indeed.com によるとシアトルの教員の平均年収は、同市の平均年収を遥かに下回る $65,100 だという。

しかし、私の周囲にいる保育園の先生や IT 系以外の職に就いている友人たちを見ると、彼らの年収は教員の平均年収にも満たないのが現状だ。今回のストライキによって上昇した教員の年収額が報道された時、その金額の高さに驚いたのは周囲とのギャップのせいだった。

シアトルから北へ車で 40 分ほどのところにあるエバレット市を例に挙げると、今後、学士号を持つ教員の初年給は $62,688、修士号を持ち勤務歴がスケール最大枠の教員の年収は $114,272 になるという(HeraldNet.com 2018 年 9 月 18 日掲載)。最近、大手 IT 企業の進出が増えている影響でシアトル近辺の物価が高騰していることは周知の事実だが、ホームレス人口も増え、急激な物価上昇に見合う年収がなくシアトル市外や州外へ引っ越す人も増えている。また、年々上昇する固定資産税を払えず、大切な持ち家を売却せざるを得なくなった人々も増加している。

「Yes!」の代償はタダ……なわけがない

さて、今回承認された教職員たちの給料の大幅値上げ予算は、どこから捻出されるのだろう? たとえば固定資産税が今よりもさらに上昇した場合、「子供たちのために」という理由で「教師の給料値上げに賛成した人々」が、自らに与えられた税金を払えずに大切なマイホームを手放すことになってしまったら……? 仕事に対する満足度が高い教員たちから、素晴らしい教育を子供に指導してもらうためならば、「家を手放しても仕方ない」と考える人は、まずいないのではないだろうか。

自分のその一票によって、苦労して手に入れた自分の家を失う可能性があるほど高額な税金を支払う結果が伴うことを、新聞やニュース番組では報道してくれない。安易に「Yes」、「No」を判断する前に、多くの情報を咀嚼して自ら考える力の必要性を深く感じた。

この記事の寄稿者

東京都出身。インターナショナル・スクール、日本での普通教育を経て、1992年に渡米。シアトルで写真や美術史などを学んだのち、ニューヨーク州ロングアイランド大学で社会科学を専攻。在学中にはジプシー女性の社会的立場、低所得層のインド女性の人権などに関する研究に力を入れた。大学卒業後は日系新聞社、大手IT企業などで専任翻訳、ビジネス・コーディネーターを務め、その後、独立。現在はシアトルで翻訳家として活動を続けている。得意分野はテクノロジー関連の翻訳。趣味は写真、読書など幅広く、音楽はクラッシックや80年代までのパンク、ヒップホップやトリップホップ、初期のレスター・ヤングなどを好む。

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