文化の「盗用」について考える

文化の「盗用」について考える

保守とリベラル派の対立が激化し「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが語る。アメリカに住んでいると、たびたび話題になるのが「文化の盗用」。当事者としてこの問題を扱うことになって感じたこととは?


その「文化」は誰のものか?

 もう1年以上前になるが、ファッション誌『Vogue』で、芸者風ファッションに身を包んだモデルのカーリー・クロスが批判を浴びて謝罪する、という事件があった。批判された理由は「日本文化を盗用した」ためである。白人の彼女が、縁のない文化である芸者の服装をしたこと、そしてVogue誌についても多様性をうたいながらも日本人のモデルを起用しなかったことが大問題になった。こうした議論は日本ではあまり出ないかもしれない。しかし、異なる人種が暮らすアメリカでは、文化の盗用、つまり「Cultural Appropriation」の問題は常に気遣いが必要なのだ。

ネイティブ・アメリカンは「インディアン」ではない

 以前この連載で、私が理事を務める劇団で「ピーター・パン」の上演をするために、地元のネイティブ・アメリカンたちと話し合いを重ねていることを記事にした。現在、上演に向けた準備は大詰めで、さらに細かな打ち合わせがスクワミッシュ族と続いている。

 ここで議題に上ることの多くも、この「文化の盗用」だ。スクワミッシュ族の文化は彼らのものであって、それ以外の人たちのものではない。歌や太鼓に合わせた踊りや服装についても、それらを簡単に模したものであってもステージで使うことはタブーだ。

 ちなみに日本では彼らを称する際、一括りに「インディアン」という言葉が頻繁に用いられるが、これは大きな間違いだ。「インディアン」はインド人のことであって、ネイティブ・アメリカンはインディアンではない。そのため私たちの劇団でも、脚本にあった「インディアン」という言葉は、著作権保持者との交渉のもと、すべて「ネイティブ」という言い方に変更した(ちなみに、もっと正しくいうと彼らはすべて部族名で呼ばれるべき存在である)。

 また、劇で利用するネイティブの衣装についても「コスチューム」という言い方は適当ではなく、「伝統的なレガリア(ネイティブの象徴)にインスパイアされたもの」という言い方に徹底している。それでも演出を詰める間には、たびたび「文化の盗用」問題にぶち当たる。すべての会議に出席して、この対話に参加しているが、「誰にとっても100%ハッピーな状況になることはあり得ない」ことを実感する。

 こうした「違い」を子供たちに教えていくことも、とても難しい。奇しくも今月末はハロウィンだ。スクワミッシュ族の長老たちと話していると、ハロウィンほど嘆かわしいイベントはないという話が出る。ハロウィンは文化の盗用のオンパレードだからだ。様々なコスチュームに身を包んだ子供が街に繰り出してキャンディーをねだるイベントも、今後はもっと気遣いが必要とされる傾向になっていくのかもしれない。

この記事の寄稿者

青山学院大学卒業。コマーシャルなどの映像コーディネーターを経て1998 年、宝塚歌劇団香港公演の制作に参加。その後プロデューサーに転身。株式会社MJ コンテスほか複数企業の代表として、ネバダ州立大学公認のピラティススタジオ日本進出事業や各種研修事業、2007 年に行われた松任谷由実の 「ユーミン・スペクタクル シャングリラⅢ」をはじめとする国内外の舞台・イベント制作など、さまざまな事業を展開。これまでにベストセラー数冊を含む70以上の書籍、DVD 作品を企画、プロデュース。現在も様々な事業を展開しながら“Go Tiny”(大切なものが、すべて半径5メートル以内にあることに気づこう!の意)というライフスタイルの提案も展開中。

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