米連邦最高裁の均衡が崩れた危険なアメリカ

米連邦最高裁の均衡が崩れた危険なアメリカ

圧倒的にリベラル派が多く住むカルフォルニア州。同州在住でトランプ大統領に投票しなかったアメリカ人のひとりである著者が語る、今のアメリカのリアル。今回は、トランプ大統領が指名した米連邦最高裁の新しい判事が、多くの米国民が反対する中でも就任したことについて、リベラル派の著者がリベラルの視点から意見する。


カバナーは公平な人ではない!

 米連邦最高裁判所に新しい判事、ブレット・カバナー(53)が就任した。トランプ大統領がカバナーを指名した後に上院で投票が行われ、賛成50、反対48で承認された。カバナーの就任によって、最高裁内のバランスが保守寄りに傾くと予想される。最高裁判事には終身制が採用されているため、今後のアメリカ文化に何年も、おそらく数十年も、大きな影響を与えるだろう。

 最高裁判事の任命対象となる裁判官は、「法律を公平に解釈する」人でなければならない。その承認を得るためには、上院100名のうち、60名以上の賛成が必要だ。つまり、「幅広い支持を得られる人物」が選ばれることが大切なのだ。

 しかし、トランプが大統領になってから、共和党上院総務がその規則を変更し、現在は最高裁の判事を承認するには単純過半数の51票しか必要とされない。これはトランプ率いる共和党にとって大変都合の良いことだ。なぜなら、彼らは上院で51議席を持つ多数派だからである。自分たちが支持する判事候補者に投票してもらうために、ひとりの民主党員を説得する必要もない。誰が大統領から指名されても、その人が判事に承認される構図はできあがっていた。

 カバナーは公平な人ではない。彼は熱心な共和党支持者で、政治工作員だ。以前はブッシュ政権に仕えていた彼の記録を見ると、現代のアメリカの保守的な動きを弁護する立場を貫いている。たとえば、企業や富裕層の利益を優先する。「政治家候補者に資金を提供することによって、政治に影響を与える能力を制限する規制」にも反対した。「環境を保護する規制」も反対。「労働者、移民、女性の権利を守る規制」にも反対。そして、銃を支持し、妊娠中絶に反対している。

なぜ共和党は、それでもカバナーを判事にしたかったのか?

 共和党員がカバナーの指名を支持した最大の理由は、共和党が長い間、目標にしてきたことを実現する、つまり「ロー対ウェイド裁判を覆す」手助けをしてくれると信じているからだ。最高裁は1973年に「妊娠した女性が中絶する権利を守る」という決定を下したが、共和党はこれを覆したいのだ。

 また、トランプ大統領がカバナーを指名した、もうひとつの大きな理由は、カバナーが「在任中に現職大統領を犯罪行為によって起訴するべきではない」と表明しているからだ。トランプに投票しなかった多くのアメリカ国民は、トランプ大統領がいくつもの犯罪を重ねている常習犯だと信じている。実際、トランプの政治運動に対して現在進行中の特別顧問調査があるが、そこからトランプの同僚や仲間のうち、すでに5人が有罪判決を受けるか、罪を犯したことを認めている。この調査が、最終的にはトランプへ導かれることは明らかだが、もしそうなった場合、あらゆる刑事訴訟は最高裁によって最終決定がされるかもしれない。トランプは、「自身が犯した犯罪の責任を負わなくてよい」という決定に投票する可能性の高い最高裁判事の指名に見事、成功したのである。

 カバナーの最高裁判事への指名は、彼が若い頃に犯したとされる性的暴行についての信憑性ある主張によって不意になるところだった。共和党主導の上院は、これらの申し立てを真剣に受け取るふりを装った。この調査の間、カバナーは宣誓下で偽証をし、怒鳴り、彼に質問した上院議員を侮辱した。カバナーのその一連の行動は、彼には最高裁の一員となる気質がないことを実証していた。もし他の候補者が同じことをしたなら、不適格とみなされただろう。しかし結局、共和党主導の上院は、アメリカ国民の反対を無視して、共和党の意向を押し付けることに決め、カバナーの指名を承認した。

 今日、共和党は連邦政府の全3部門を支配している。よって、国や国民のためになる、より良い決定をすることが可能だが、彼らはそんなことには興味がない。共和党にとって重要なことは、この権力を維持して実力行使することだけだ。これは、アメリカという国にとって非常に危険なことである。そして危険な時代が始まったと言えるのだ。

この記事の寄稿者

1974年生まれ。文学書とコーヒーを愛するコラムニスト。書籍に関しては幅広く読むが、コーヒーに関しては、豆の原産地から流通や焙煎の過程までを詳細にフォローし、納得したものだけを味わうことにしている。温厚で穏やかな性格であるものの、コーヒー豆へのこだわりと同様に理路整然としない、あるいは納得できない社会の動きに対しては、牙をむく活動派的な一面もある。妻と犬一匹と共に、カリフォルニア州オークランド在住。

関連する投稿


【Red vs. Blue】日本でのトランプ大統領の発言に、アメリカ国民はどう思ったか?

【Red vs. Blue】日本でのトランプ大統領の発言に、アメリカ国民はどう思ったか?

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。当連載ではアメリカで報道された新聞記事について各派のアメリカ人が見解を披露する。今回は先月、日本に新元号初の国賓として訪れたトランプ米大統領が、日本で開催された記者会見で自国の政敵の悪口を言い、金正恩の発言をサポートしたことについて。


再選活動本格始動! トランプ大統領とディナーを食べたい人、募集中

再選活動本格始動! トランプ大統領とディナーを食べたい人、募集中

毎度お騒がせのドナルド・トランプ大統領が、「彼とディナーを一緒に食べたい人」を募集している。来年の大統領選挙での再選に備えたPR活動の一環だ。公式HPで応募がスタートされるや否や、ネット上は大騒ぎになっている。


国境警備員の仕事は子守じゃない! 民主党が招いた不法移民激増の危機

国境警備員の仕事は子守じゃない! 民主党が招いた不法移民激増の危機

米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回はメキシコ国境があるテキサス州の住人だからこそ見える国境警備隊と不法移民たちの日常と、保守派は不法移民の激増をどう見ているのかについて。


不法移民と合法移民は違うのに

不法移民と合法移民は違うのに

保守とリベラル派の対立が激化し「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが語る。極端にリベラルな人の中には、なぜか不法移民と合法移民は同じと考える人がいる。しかし、そこで正しい意見を言うと命の危険も?


社会的な弱者を決めつける、矛盾だらけのリベラル派

社会的な弱者を決めつける、矛盾だらけのリベラル派

米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回は「社会的弱者として擁護されるべき人々」を、「白人男性以外」、「キリスト教以外」だと決めつけているように見えるリベラル派の矛盾を、保守派はどう見ているのかについて。






最新の投稿


他人と会話が続かない人が増えている?

他人と会話が続かない人が増えている?

アメリカ生活も20年を過ぎた翻訳家の高柳準が、アメリカ文化とそれにまつわる矛盾を語る「アメリカで暮らしながら想うこと」。今回は、ユーザーの質問に答えるAI 搭載の電子機器がアメリカの日常生活に浸透する一方で、他人と会話のキャッチボールができない人が増えていることについて。


年間180ドルで、世界の一流から学べる夢の授業

年間180ドルで、世界の一流から学べる夢の授業

演技、歌、料理、映像制作など、世界で一流と言われるプロフェッショナルたちから学べるオンライン・プログラムがある。業界の第一線で活躍している夢のような講師陣が揃うだけでなく、その受講料金の安さで、アメリカで人気に火がついた。


打倒アマゾンを掲げるウォルマート 家の冷蔵庫の中まで配達?!

打倒アマゾンを掲げるウォルマート 家の冷蔵庫の中まで配達?!

国土が広大なアメリカでは、宅配に時間が掛かる。そのため企業は短時間で荷物を届けるサービスを競い、時短輸送システムの構築に力を注いでいる。現状、宅配のスピードに関してはアマゾン・ドットコム社のプライム会員サービスが王者の座についているが、それに対抗しようとするのが全米各地に大型店舗を展開する大企業ウォルマート社だ。


今週の神秘ナンバー占い(2019年6月14日~20日)

今週の神秘ナンバー占い(2019年6月14日~20日)

当たりすぎて怖い? ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスがお届けする今週の神秘ナンバー占い。神秘ナンバーとは、東洋数秘術、西洋数秘術、アステカ秘術など複数の占術をベースに導き出す、運気を読み解く数字のこと。あなたの運勢はどのように変化する?!


【Red vs. Blue】日本でのトランプ大統領の発言に、アメリカ国民はどう思ったか?

【Red vs. Blue】日本でのトランプ大統領の発言に、アメリカ国民はどう思ったか?

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。当連載ではアメリカで報道された新聞記事について各派のアメリカ人が見解を披露する。今回は先月、日本に新元号初の国賓として訪れたトランプ米大統領が、日本で開催された記者会見で自国の政敵の悪口を言い、金正恩の発言をサポートしたことについて。


アクセスランキング


>>総合人気ランキング