【11/12追記あり】大統領よりも重要!?「最高判事」でアメリカが変わる

【11/12追記あり】大統領よりも重要!?「最高判事」でアメリカが変わる

保守とリベラル派の対立が激化し「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが語る。中間選挙が終わるや否や、アメリカ中が危惧する問題が勃発。大統領より時に重要で、国を揺るがしかねない最高判事問題とは?


ギンズバーグ最高判事の入院! アメリカ中が祈りを捧げる

 アメリカでは6日に中間選挙が行われ、民主党が保守を抑えて下院での議席過半数を奪回したことが、日本でも報道されたばかり。しかし、その選挙から一夜明け、中間選挙の結果に一喜一憂するどころの騒ぎではないニュースが飛び込んできた。リベラル派の最高判事、ルース・ギンズバーグ女史が、転倒により肋骨を3本骨折してしまったのだ。彼女は現在85歳。最高裁判事の中では最高齢である。その報道がなされた途端、ソーシャルメディアは彼女の回復を祈るポスティングで溢れかえることとなった。

 日本の人からすると、ひとりの最高判事の骨折がなぜ大騒ぎになるのか、ピンとこないかもしれない。しかし、この問題がアメリカ社会に与える影響は、ある点においてトランプ大統領の存在すら比にならないほど大きいのだ。それはなぜなのか。

アメリカは、最高判事が国の歴史さえ揺るがす

 アメリカの最高判事の定員は9人で、定年がない。最高判事が亡くなったり、辞めざるを得ない状況になると、大統領が新しい判事を指名するシステムになっている。大統領が指名した判事を承認するのは上院で、過半数の承認が必要だ。

 今回の中間選挙では、民主党が下院は過半数を奪回したが、上院は共和党が過半数を死守した。トランプ大統領は共和党なので、もしもギンズバーグ判事がこのケガが原因で最高判事を引退しなければならない事態になった場合、トランプ大統領が保守寄りの判事を指名することは明らかだ。上院は保守が優位なので、彼の指名した判事が承認される確率は高い。

 ちなみにトランプ大統領は就任から2年足らずの間に、保守寄りの判事を二人も最高裁判所判事に送りこむことに成功している。だから現時点ですでに、最高判事の数は保守寄りなのだ。ここで新たにまた保守派の判事が承認されたら、最高裁判所が極端に保守に偏ってしまうことになる。さらに言うと、トランプ大統領が先に送り込んだ判事は二人とも現在50代と若い。つまり最高判事に定年がない以上、このまま彼ら二人は数十年に渡り、アメリカの政治に影響をもたらす存在になると考えるのが妥当だ。

 最高裁の影響力について一例をあげると、最近で記憶に新しいのは同性婚だろう。アメリカでは2015年に同性婚が合憲となった。この判断を下したのは他ならぬ最高裁だが、以降アメリカでは急速に同性愛への理解が増し、性的マイノリティの社会的配慮が進んだ実績がある。このように、最高裁の決定というのは、アメリカの社会そのものを変えていく力を秘めていると言えるわけだ。

守られるべき、民主主義の砦

 アメリカでは昨今、国の分断が取り沙汰されているが、だからこそ国家は保守派、リベラル派という二つの異なる思想背景に対し、健全性を保つ必要がある。アメリカの三権分立は、行政を司る大統領、立法を司る連邦議会と並び、司法を司る最高裁判所とで成り立っており、これらによって民主主義が守られる仕組みになっているのだから、それは社会機能として守られねばならない。

 しかし今、そんなアメリカの民主主義の要が、右派に傾倒しようとしている。アメリカ人の多くが危惧するのは、その点だ。

 最高裁判所が今後数十年、ずっと右派寄りのままということは保守派にとっては喜ばしいことかもしれないが、そうなってしまったら、アメリカの民主主義は機能しなくなるのではないか? 議会では決着がつかない案件に対して、最高裁がすべて右派寄りの判断を下すようになったら、社会は一体どうなるだろう? 保守派の望む政策だけが優先され、リベラル派の声が届かなくなってしまったら、そうした不健全性が新たな問題を生むのではないだろうか。

 先に述べたが、アメリカの最高判事の持つ思想背景が政治的な決定に及ぼす影響は、日本とは比べ物にならないほど大きい。最高裁の右派傾倒を、筋金入りの保守派は歓迎するかもしれないが、リベラル派はもとより、中道派、中道寄りの右派の中にも、この問題を危険視する人は大勢いる。国そのものが変わってしまい、想像もつかないような社会に変わって行くのではないかという「未来への不確かな不安」を、多くのアメリカ人が抱えていることは間違いない。

 私たちは、未来を常に見越した上での「今」を、生きていかねばならないということなのだろう。確実に訪れる社会的な変化の足音を、どうアメリカが捉えていくのか、そして変わりゆくアメリカに対し、日本はどう対応していくのだろうか。

 大統領に何か問題があったとしても、その任期は4年、長くて8年だ。――しかし、繰り返し言うが、最高判事には任期がない。

【追記】
ギンズバーグ最高裁判官は米国時間の金曜に退院し、"doing well and plans to work from home today."(大丈夫です。今日は自宅で仕事をする予定です)という声明を出した。民主主義の要といえる同裁判官の無事を祈る米国市民は多く、米最大の手芸クラフト・サイト「Etsy」でも、「Ruth Bader Ginsburg」最高裁判官にまつわる商品がカテゴリー化しているほど。

この記事の寄稿者

青山学院大学卒業。コマーシャルなどの映像コーディネーターを経て1998 年、宝塚歌劇団香港公演の制作に参加。その後プロデューサーに転身。株式会社MJ コンテスほか複数企業の代表として、ネバダ州立大学公認のピラティススタジオ日本進出事業や各種研修事業、2007 年に行われた松任谷由実の 「ユーミン・スペクタクル シャングリラⅢ」をはじめとする国内外の舞台・イベント制作など、さまざまな事業を展開。これまでにベストセラー数冊を含む70以上の書籍、DVD 作品を企画、プロデュース。現在も様々な事業を展開しながら“Go Tiny”(大切なものが、すべて半径5メートル以内にあることに気づこう!の意)というライフスタイルの提案も展開中。

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