シアトルのホームレス人口はなぜ減らない?

シアトルのホームレス人口はなぜ減らない?

アメリカ生活20年を過ぎた翻訳家の高柳準が、アメリカの文化とそれにまつわる矛盾を語る「アメリカで暮らしながら想うこと」。今回は多くの画期的な解決策が提示される「ホームレス問題」の中で、「この解決策ってどうなの?」という疑問が沸いてしまうような対策案について、リベラルな著者ならではの視点をまとめてみた。


シアトルはホームレスに寛大な街なのか

 長年シアトルで暮らしてきたが、最近は本当にホームレス関連のニュースが増えた。シアトル・タイムス紙によると、今年、この街を含むキング郡における路上生活者数は12,000人を超えたという。ボランティア精神が根本的に根付いているアメリカでは、「困っている人を助けよう」という風潮があるが、繁華街だけでなく住宅街での犯罪率や衛生の悪化が高まっていくと他人事ではなくなるようで、地域のホームレスに関する情報が毎晩のように報道されている。

 シアトル市長は低所得層向けの住宅や施設の増築に努めており、ホームレス・キャンプを守ろうと熱心に活動する人々もいる。施設の提供や公道の使用を容認することで路上生活者の「今後」を支援できると私も信じたいが、さて実際にはどうなのだろう。

 例えば「セーフ・インジェクション・サイト」。これは薬物中毒者が安全に薬物を利用できるために作られた施設だ。これはホームレスの人たちに薬物の使用を辞めさせるためではなく、薬物を「安全に利用するため」の施設なので、あくまでも現状の緩和に着目した対策だが、シアトル市長はホームレス対策予算案9千万ドルのうち、130万ドルをこの施設の増加に使う予定だという。

 そんなシアトル市とは対照的に、同市から車で約30分離れたアーバーン市では、日々増えるホームレス人口に対し「アカウンタビリティ」を活用して現状の改善を試みている。「アカウンタビリティ」とは「責任」。つまり、何かを提供するだけの支援とは異なり、ホームレスの人たちも何かに貢献しなければならない仕組みを導入したのだ。同市では、ホームレス用の施設利用者に清掃などのボランティア活動を課して、彼らも地域の一員としての責任感が持てるような取り組みを展開している。この件が報道された際、「もっと彼らに期待しても良いはず」と語るアーバーン市長に、ホームレスの人々が笑顔で応えている様子が印象的だった。

システムの利用 & 自立への道、そのバランスはいかに?

 ホームレス問題を解決するには、アーバーン市の例のように、自立への一歩を支援することが効果的だと見る人もいる。一方でシアトル市のように、彼らが抱える問題の解決には、安全性と最低限必要な施設を提供することが、より人道的で最優先だと考える人もいる。

 路上生活者の経歴は様々だ。しかし、困難な状況でも機会さえ与えられれば、人はいつでも誰かの役に立てると私は思う。彼らが社会還元の機会を得て、社会で居場所を実感することは、平穏に暮らす人々には想像しがたいほど大きなことなのではないだろうか。

 だとすると、安全性を理由に彼らの習慣を助長する支援と、社会の一員であることを実感させる支援の効率的な配分が、結果を大きく左右するように思える。「一旦システムに依存すると自立しにくくなる」と、薬物に長年はまっていた人たちは頻繁に言う。シアトル市が表面上だけのキャンペーンではなく、本気でホームレス人口を減らし、1人でも多くの人々が充実した生活を営めるよう自立への支援に取り組んでいると信じたい。

この記事の寄稿者

東京都出身。インターナショナル・スクール、日本での普通教育を経て、1992年に渡米。シアトルで写真や美術史などを学んだのち、ニューヨーク州ロングアイランド大学で社会科学を専攻。在学中にはジプシー女性の社会的立場、低所得層のインド女性の人権などに関する研究に力を入れた。大学卒業後は日系新聞社、大手IT企業などで専任翻訳、ビジネス・コーディネーターを務め、その後、独立。現在はシアトルで翻訳家として活動を続けている。得意分野はテクノロジー関連の翻訳。趣味は写真、読書など幅広く、音楽はクラッシックや80年代までのパンク、ヒップホップやトリップホップ、初期のレスター・ヤングなどを好む。

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