【Red vs. Blue】得票数は関係ない? 理解しづらいアメリカの選挙システムと中間選挙

【Red vs. Blue】得票数は関係ない? 理解しづらいアメリカの選挙システムと中間選挙

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された新聞記事について各派のアメリカ人が見解を披露する。今回は、先の米中間選挙でも意見が飛び交った「各州の選挙区境界線がフェアではない」等の問題について。


 今月6日に行われた米中間選挙では、トランプ大統領に対する国民の反発などから、民主党が大幅に議席を獲得すると予想されていた。しかし結果は、共和党が上院の過半数を維持し、下院では民主党が過半数を得たものの議席数は予想されたほど大きく伸びなかった。なぜ民主党の議席数は伸びなかったのか? その理由についてVOXの記者は、「選挙区境界線」の引き方が共和党に有利であったことを指摘。また、いくつかの州では様々な投票妨害が主に共和党によって行われていたと報道した。例えばジョージア州知事選では、現職知事である共和党候補が選挙事務を取り仕切る州務長官も兼ねており、選挙直前に黒人有権者の多い地区の有権者53,000人の登録が削除されたことなどが判明している。対抗馬だった民主党候補は、州の選挙事務が不当だったとして近く連邦裁判に訴訟を起こす方針だという。

 以前から見直しを求める声が多い「選挙区境界線」問題や、人口と比例しない州ごとの上院議員数など、現システムを保守派とリベラル派はどう見ているのか?

出典:『Vox』
Wasn’t the Blue Wave Bigger?

【RED:保守派】 これから2年間は、嵐の前の静けさだ

The Calm before the Storm

 今月開催された米中間選挙の後、左派、リベラル派、そして民主党は、なぜ自分たちが圧倒的な数で勝利できなかったのかに困惑しているように見える。彼らが予想していた「ブルーウェーブ」が、期待した通りには起きなかったからだ。

 今回の選挙では、民主党が34議席を増やして下院の支配権を獲得した一方で、共和党は上院の支配権を維持しただけでなく、2議席を増やした。これはトランプ大統領のこの2年間の業績が成功したことに起因している。

 米経済は現在3.5%の健全な成長を遂げており、失業率は1968年以来最低の3.7%。そして中国、メキシコ、カナダ、ヨーロッパとの貿易赤字は急速に縮小している。さらに、アメリカの黒人とヒスパニックにおけるトランプ人気の高まりが、中間選挙前には、あらゆる地域で起きると思われていた民主党の反撃を弱めることになった。これと対照的なのが、2010年のオバマ大統領政権下の最初の中間選挙だ。そこでは民主党が下院63議席、上院6議席を失った。オバマ政権への最初の審判は、現政権下よりもはるかに厳しかったと言える。つまり、今回は左派メディアや政治的な熱狂者が望んだ民主党による大きなブルーウェーブが起きる条件は整っていなかったということなのだ。実際の中間選挙は、大人しい霧雨のような選挙であったと言えよう。

 では、これから何が起きるのか? 民主党が下院を支配し、共和党が上院とホワイトハウスを支配しているため、立法や新しい法律はほとんど通過しないだろう。そしてトランプ大統領は、前任者のオバマ氏と同様、立法に頼るのではなく大統領令を行使して、アメリカのために彼のビジョンを引き続き推進していくはずだ。本質的に2大政党間は政治的な「こう着状態」にある。しばらくは2020年アメリカ大統領選を前にした「嵐の前のつかの間の静けさ」が続くことになるだろう。

【Blue:リベラル派】 国民にパワーを戻すべき時だ

It’s Time to Give the Power Back to the People

 アメリカは、人口数に関わりなく上院議員の数は州に2人と決まっている。つまりワイオミング州50万人を代表する議員も、カリフォルニア州に住む約4,000万人を代表する議員も同じく2名だ。人口の多い州ほど民主党に投票する傾向があるが、上院において、それは反映されない。

 対照的に、アメリカには下院に投票する435議席の地区ある。約3分の1の州には、それぞれ選挙区をどのように分割するかを決定する独立した委員会がある。残りは各州政府が選挙区の境界を決める。境界線を決め、コントロールするのは、その時の州政権を握っている党となる。その時の政権次第で選挙区の改定が行われるなど公正とは思えないが、これが全くの合法なのである。「線引き変更の方法」の解説図がこれだ。

 選挙区改定に関する最大の苦情はその不公平さにあり、一方の党に非常に不利になる場合は「ゲリーマンダリング(党利党略のための選挙区改定、Gerrymandering)」と呼ばれる。人々が政治は公正でないと思うと、投票は意味がないと考えるようになり、人々は選挙に行かなくなる。投票に意味がないなどという選挙があってよいはずはない。そうなったら政府は市民のための公僕ではなくなり、支配的存在になってしまう。

 アメリカで選挙が開始されたのは、何も聞かされないまま課税されたことに対する人々の暴力的な怒りがきっかけだった。現在、移民の人々がアメリカ国民になろうとする時、米国民に与えられた最も重要な権利をあげるようにと問われる。正解は「投票権」だ。すべての国民の票が数えられるのは倫理であり、それは公正に数えられるべきだ。

 先の中間選挙では民主党がいくつかの州での支配権を獲得したため、選挙区地図の一部を変更する権限が与えられた。元共和党のカリフォルニア州知事で映画スターだったアーノルド・シュワルツェネッガーは、民主党がそれを行わないことを願っていると語ったが、それは私も同じ意見だ。シュワルツェネッガーは、ゲリーマンダリングに反対する運動を長年続けており、最近では複数の州で選挙地区を独立管理に変更するための運動にも関わっている。彼はゲリーマンダリングはアメリカ人に影響を与える「最大の詐欺のひとつだ」と言っており、今こそ「人々にパワーを戻す時だ」と述べている。私もこの意見に全面的に賛同する。

寄稿者

ジム・スミス(Jim Smith)農場経営者

1965年生まれ。アラバマの伝統的な保守派の両親のもとで生まれ育った影響から、自身も根っからの保守支持に。高校卒業後、アメリカ陸軍に入隊。特殊部隊に所属し8年軍に従事するも、怪我が原因で除隊。その後テキサス州オースティンの大学で農経営学を学び、現在は同州アマリロ近郊で牧畜を中心とする多角的な農場を営んでいる。地元の消防団に所属し、ボランティアの消防隊員としても活動するなど、社会奉仕活動多数。妻と子供3人の家族5人暮らし。

ポール・クラーク(Paul Clark)データ分析コンサルタント

1972年、オレゴン州のリベラルな街に生まれ、両親も親戚も学友も周囲は皆リベラルという環境で育つ。カリフォルニアのベイエリアにある大学へ進学し、英文学とコンピューターサイエンスを専攻。卒業後はベイエリアの複数の企業に勤務し、各種のデータ分析業務に従事。現在は家族と共にオレゴン州に在住。趣味はサッカーとクラフト・ビール造り。

この記事の寄稿者

「市民の声」を分かりやすくお届けする公式企画。分断が進むアメリカで、対立する思想を持つ市民はひとつのニュースをどう読むのか?
 対立する思想を持つ市民たちによって深まるアメリカの「分断」。アメリカには二大政党の共和党(保守)と民主党(リベラル)があるが、それぞれの政党支持者は、どれだけ考え方が異なるのだろう?人口で見ると保守派、リベラル派の比率は約半々で、両者のものの考え方は、水と油ほど異なると言われている。日本からはあまり分からない「普通」のアメリカ人たちの思想の傾向。
 この連載では保守派共和党の公式カラーである赤、リベラル派民主党の青をタイトルに、アメリカ国内で報道された「ひとつの記事」に対して、保守派(赤)とリベラル派(青)のアメリカ人がそれぞれのどんな見解を示すかを対比するBizseedsイチオシの連載・特別企画!

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