アメリカのド田舎における「日本のラーメン屋」事情

アメリカのド田舎における「日本のラーメン屋」事情

NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などをアーカンソー州よりジョーンズ千穂が紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。アメリカにおける日本のラーメン・ブームが騒がれて久しいが、それは都会での話。南部では、まだまだ不思議なラーメンが幅を利かしている。


アメリカの本格派ラーメン・ブームは都会だけ

 私が暮らすアーカンソー州は、アメリカで「フライオーバー・カントリー(Flyover Country)」と言われる地域にある。米西海岸と東海岸の大都会を飛行機で移動する人々が機上から眺めるだけの地域とか、同じアメリカ人でも立ち寄ることはない地域という揶揄なのだが、南部の州のほぼ全域がこれに入る。

 アメリカ人でも、どの州がどこにあるのかさえ分からない人も多い南部だが、テキサス州には都会と呼べる街も多い。同州のダラス市は数年前に米トヨタ本社がロサンゼルスから転居してきたため、トヨタ景気といえる日本ブームが起きている。日本食スーパーや、日本人が経営する寿司屋や居酒屋、ラーメン屋、日本の書店、日本式の施術が受けられる美容院など、アメリカの田舎に暮らす日本人には喉から手が出るほど羨ましいサービスが揃った街に変貌した同州ダラス市は、南部の私たちにとっての“プチ日本”だ。

“ちゃんとした”ラーメンが食べたい!

 そんな中、私の住む地域にも先日はじめて日本のラーメン屋が開店した。そのニュースを聞きつけ、近隣に住む日本人はもちろん、麺好きなアジア人や、日本に住んだ経験があるアメリカ人、日本のアニメ好きやラーメンとやらを体験してみたいと思っていたアメリカ人たちなど、大勢の客がその店の開店を喜んだ。

 「やっと日本のラーメンが食べられる!」と、私も早速お店に行ってみると、車のナンバープレートから近隣州からも人々が食べに来ているのが分かり、期待が高まった。運ばれてきたラーメンは、まさに日本で普通に提供されているようなラーメンで、とても美味しそうだった。

 ところが、スープがぬるい、少ない、そして薄い! しかも味噌ラーメンなのに、とんこつラーメンに使われるようなストレートの細麺で、食感が非常に柔らかい。「味噌ラーメンなら、汁が絡まる玉子ちぢれ麺だろう?!」と落胆したが、店内を見わたすとみんなが満足そうで驚いてしまった。ネットでの店の評価も高く、「日本のラーメンがやっとアーカンソーに来た!」と街の人々は大喜びなのだ。

 この程度のラーメンでも大絶賛されるならば、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市に進出している本格的な日本のラーメン屋が進出してきたら、どれだけ人気が出るだろう。前述のダラスでもラーメン・ブームが起きていると聞き、数時間も車を運転して食べに行ったことがあるが、日本食スーパーの中に「山頭火」ができたりする前までは本格的なラーメンはなかなか食べられなかった。ネットでの評価が良くても、ラーメンのスープが味噌汁だったり、麺がラーメン用ではなかったり、ほぐれない麺が団子状になっていたり、ネギの代わりにブロッコリーがトッピングされていたりという驚くべき経験をしたことが多々ある。

 それでも、アメリカで「ラーメン」と聞くと、どうしても気になってしまう。日本に住んでいた頃は、それほどラーメンを食べたいと思わなかった気がするのだが、何度落胆させられても、店が遠くても、「日本のラーメン」と聞くと「あの味」が恋しくなって、反射的に食べてみたくなってしまう。それは単にアメリカのド田舎に暮らす日本人の郷愁なのかもしれない。

この記事の寄稿者

 東京都出身。アメリカ人航空機パイロットの婚約者の米本土転勤に伴い、一般企業を退職。K-1 Visa にて渡米したのち結婚。現在、アメリカ南部アーカンソー州在住。移住後はパイロットを夫に持つ婦人の会や、日本語補習学校を通じての活動、現地日本人や移民•マイノリティーへの支援、生活アドバイス、ネット上でのアメリカ生活に関する相談・コンサルテーション、翻訳、通訳、観光案内など、国際線パイロットの夫のスケジュールに翻弄されながらも、さまざまなボランティア活動に力を注いでいる。

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