米国のダイバーシティ、言論の自由はどうなった?

米国のダイバーシティ、言論の自由はどうなった?

アメリカ生活20年強。翻訳家の高柳準が、アメリカ文化とそれにまつわる矛盾を語る「アメリカで暮らしながら想うこと」。今回はリベラルな町・シアトル在住の著者が見た、性別や人種、価値観などの多様性について。社会全体の成長を目指す多様性と自己正当化の違いは紙一重。自由と平等を重視するリベラル派の主張は今後どうなるのか?


押しが強いメディアの多様性にウンザリする人も

 最近よく耳にする「ダイバーシティ」は「多様性」のことで、性別・人種・価値観の多様性を受け入れ、社会全体の成長を望むことを意味するが、近頃はその言葉の解釈まで多様化している傾向があり、これを懸念する人も増えている。

 たとえば民主党(リベラル派)の支持率が高いシアトルでは、この「多様性」を理由に地元バレエ団が『くるみ割り人形』で人種差別的と思われる「お茶の精の踊り」にアレンジを加え、地元紙から賞賛を受けた。また、日常会話においても違法滞在者やホームレス問題、#MeToo、LGBTQに“賛同していること”が前提になることが多く、面倒を避けるため発言を控える人も増えた。

 こうした状況に警鐘を鳴らす人もいる。エッセイストのヘザー・マクドナルド氏は、こうした多様性の社会的影響を危惧する一人だ。また、映画界でも「多様性」を押し出した作品は後を絶たず、それを度が過ぎると感じていたり、社会的な圧力により今まで以上に「差別」を意識するようになったという声もある。さらに、出版業界からは「多様性」と「平等」を混同しているという意見まで出ており、この「多様性」が新鋭作家を発掘する上でデメリットになっていると指摘する声もある。

一昔前には見なかった多様性の浸透力

 多様性への配慮は、様々なところに広がっているが、その浸透の深さを示す最近のよい例は、「こんまり」だろう。日本の「こんまりメソッド」がNetflixシリーズで始まり全米で大ブレイクしているが、米国の著名作家エーレンライク氏が、番組内でこんまりが英語を話さないことについてツイートした。内容はそれだけではないのだが、ネットでは「差別的」な部分が炎上し、こんまりを援護するツイートが溢れた。一昔前なら、このようなアジア人に対する擁護発言を見ることは、ほとんどなかっただろう。これは多様性の受け入れが、社会に浸透していることの結果だと思われる。

 「多様性」の取り組みにはメリットもデメリットも当然ある。しかし、それが議論の対象になる際、単なる自己主張の争いを避ける術はあるのだろうか? 多様性の解釈が収拾のつかないほど多様化する前に、多様化と自己正当化の違いを明確にする必要があるのかもしれない。

この記事の寄稿者

東京都出身。インターナショナル・スクール、日本での普通教育を経て、1992年に渡米。シアトルで写真や美術史などを学んだのち、ニューヨーク州ロングアイランド大学で社会科学を専攻。在学中にはジプシー女性の社会的立場、低所得層のインド女性の人権などに関する研究に力を入れた。大学卒業後は日系新聞社、大手IT企業などで専任翻訳、ビジネス・コーディネーターを務め、その後、独立。現在はシアトルで翻訳家として活動を続けている。得意分野はテクノロジー関連の翻訳。趣味は写真、読書など幅広く、音楽はクラッシックや80年代までのパンク、ヒップホップやトリップホップ、初期のレスター・ヤングなどを好む。

関連する投稿


奴隷制に対する賠償金を支払うのは誰なのか?

奴隷制に対する賠償金を支払うのは誰なのか?

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けするコラム、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は、トランプ大統領に対抗するリベラル派の大統領候補や政治家たちが「過去の奴隷制に対して賠償金を払うべき」と訴えていることについて、保守派の見解を解説する。


不法移民と合法移民は違うのに

不法移民と合法移民は違うのに

保守とリベラル派の対立が激化し「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが語る。極端にリベラルな人の中には、なぜか不法移民と合法移民は同じと考える人がいる。しかし、そこで正しい意見を言うと命の危険も?


社会的な弱者を決めつける、矛盾だらけのリベラル派

社会的な弱者を決めつける、矛盾だらけのリベラル派

米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回は「社会的弱者として擁護されるべき人々」を、「白人男性以外」、「キリスト教以外」だと決めつけているように見えるリベラル派の矛盾を、保守派はどう見ているのかについて。


アメリカの警察は人種により対応が異なるのは本当か?

アメリカの警察は人種により対応が異なるのは本当か?

日本でよく聞く「職質」、いわゆる「職務質問」とは、街にいる「怪しそうな人」に警察官が声をかけることだが、英語だと職質は「プロファイリング」と呼ばれる。日本と同様、警察官が気になった人に対して名前や職業などを尋ねることが、今アメリカでは社会的な問題になっている。


シアトルの「犬を飼うならシェルター」事情

シアトルの「犬を飼うならシェルター」事情

アメリカ生活も20年を過ぎた翻訳家の高柳準が、アメリカ文化とそれにまつわる矛盾を語る「アメリカで暮らしながら想うこと」。今回は、犬を飼いたい人たちが増えているという話。全米でも「ドッグフレンドリー」な街で有名なシアトルでは、家族の一員として迎える犬を見つけるまでが一苦労という事態が発生しているという。






最新の投稿


奴隷制に対する賠償金を支払うのは誰なのか?

奴隷制に対する賠償金を支払うのは誰なのか?

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けするコラム、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は、トランプ大統領に対抗するリベラル派の大統領候補や政治家たちが「過去の奴隷制に対して賠償金を払うべき」と訴えていることについて、保守派の見解を解説する。


今週の神秘ナンバー占い(2019年7月19日~25日)

今週の神秘ナンバー占い(2019年7月19日~25日)

当たりすぎて怖い? ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスがお届けする今週の神秘ナンバー占い。神秘ナンバーとは、東洋数秘術、西洋数秘術、アステカ秘術など複数の占術をベースに導き出す、運気を読み解く数字のこと。あなたの運勢はどのように変化する?!


クレジットカード社会のアメリカらしい、子供向けサービス

クレジットカード社会のアメリカらしい、子供向けサービス

日本とは異なり、アメリカでは50ドル以上の現金を持ち歩く人はとても少ない。「現金はまったく持たず、クレジットカードかデビットカードのみ」という人も大勢いる。そんなカード社会だからこそ重宝されている、子供向けのサービスがある。


50歳以上の女性を対象にした一軒家シェア・マッチングとは

50歳以上の女性を対象にした一軒家シェア・マッチングとは

地域などで差はあるものの、一般的に個人主義と言われるアメリカ人は、高齢になってもひとり暮らしを好む傾向が高い。しかし50歳を過ぎて独身の場合は、必ずしもそうとは言えないようだ。一軒家の所有者で同居人を探している人と、賃貸マンションやアパート暮らしに不安を感じている人をマッチングさせるサイトの人気が上がっているという。


アイデア靴下の大勝利? 旅行やアウトドアの必需品に

アイデア靴下の大勝利? 旅行やアウトドアの必需品に

夏、真っ盛り! 旅行やイベントなどの予定がある人も多い中、海外旅行や野外イベントに行くときに、ちょっと心配なのが貴重品の管理だ。大勢が集まる場所や海外ではスリやひったくりに遭わないよう、昔ながらの腹巻型の貴重品入れに財布やパスポートを入れて持ち歩く人もいるのでは? そんなあなたにオススメなのが、このアイデア靴下だ。


アクセスランキング


>>総合人気ランキング