人工中絶はいつでも出来る?

人工中絶はいつでも出来る?

保守とリベラル派の対立が激化し「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが語る。米バーモント州で、妊娠週に関係なく人工中絶できるという法案が可決したことで教会は大騒ぎ。アメリカはどこに行くのだろう?


女性の権利か、お腹に宿った子供の権利か?

 先日、子供が通う小学校での保護者会があった。少し遅れて到着すると、なぜか集まっていた母親の数人が泣いていた。クリスチャン・スクールなので、教会から牧師が時折やってきて様々な話をすることがあるが、牧師は顔を赤くして怒っている――「一体、何があったの?」と聞くと、一人の母親が鼻息を荒くして話し出した。「バーモント州でとんでもない法案が可決された。妊娠週に関係なく、女性はいつでも中絶できるというものよ」。

 その法案とは、バーモント州下院が先月2月21日に可決した「The Freedom of Choice Act」(選択の自由法)と呼ばれるもの。母親のお腹から生まれ出ていない子供は、いかなる理由でも女性の人工中絶の権利が優先されるという法案だ。つまり、女性が主張すれば出産前日でも、中絶できることになる。この法案には、未成年者でも女性の人権は守られるべきという考えから、人工中絶を親に知らせる必要はないということも含まれている。

 人工中絶に関しては、保守派とリベラル派の間で考え方に大きな隔たりがあるが、人工中絶に寛容なリベラル寄りの考えをする母親たちでさえも、「いくら何でもあり得ない」と困惑している様子だった。そもそもクリスチャンには中絶反対派が非常に多い。そのためこの法案可決から数日間、教会は大騒ぎとなった。

生まれる前のヒトの子供の権利は、白頭鷲のヒナ以下?

 私が一番理解できないのは、母親の一存で、出産直前の子供であっても中絶しても良いことを肯定しかねない法案を通そうとするリベラル派たちが、なぜか野生動物の保護や、自然環境保護などには熱心なことだ。環境問題を訴え、絶滅危惧種の命を守ろうとする人たちが、どうして生まれてくる直前でも中絶できる権利を女性に与えようとするのだろう? やむを得ない事情で、妊娠初期に中絶する権利があることはアリかもしれないが、母体の外に出ても十分生きられる週数の子供を中絶してよいという法案は、とてもじゃないが個人的にも賛成できない。

 ちなみにアメリカでは、動物愛護のための法律がたくさんある。例えば孵化前の白頭鷲の卵を割るのは、法律違反だ。罪を犯した人は、最高で日本円で約2,800万円の罰金か、懲役二年の刑に処される。しかし、生まれる前の子供を出産する前日に中絶しても、罪にはならない――。この差をどう理解したらよいのだろう?

この記事の寄稿者

青山学院大学卒業。コマーシャルなどの映像コーディネーターを経て1998 年、宝塚歌劇団香港公演の制作に参加。その後プロデューサーに転身。株式会社MJ コンテスほか複数企業の代表として、ネバダ州立大学公認のピラティススタジオ日本進出事業や各種研修事業、2007 年に行われた松任谷由実の 「ユーミン・スペクタクル シャングリラⅢ」をはじめとする国内外の舞台・イベント制作など、さまざまな事業を展開。これまでにベストセラー数冊を含む70以上の書籍、DVD 作品を企画、プロデュース。現在も様々な事業を展開しながら“Go Tiny”(大切なものが、すべて半径5メートル以内にあることに気づこう!の意)というライフスタイルの提案も展開中。

関連する投稿


社会的な弱者を決めつける、矛盾だらけのリベラル派

社会的な弱者を決めつける、矛盾だらけのリベラル派

米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回は「社会的弱者として擁護されるべき人々」を、「白人男性以外」、「キリスト教以外」だと決めつけているように見えるリベラル派の矛盾を、保守派はどう見ているのかについて。


アラバマ州で中絶違法が決定 女性たちの権利はどうなるのか?

アラバマ州で中絶違法が決定 女性たちの権利はどうなるのか?

圧倒的にリベラル派が多く住むカルフォルニア州。同州在住でトランプ大統領に投票しなかったアメリカ人のひとりである著者が語る、今のアメリカのリアル。今回は、先日アラバマ州で中絶が禁止される法案が通ったことについて。リベラル派の著者が「これは女性の権利が取り上げられたも同然」と大反論する法律とは、どんな内容なのか?


【Red vs. Blue】全米ライフル協会に迎合するトランプ、国連武器貿易条約から離脱か?

【Red vs. Blue】全米ライフル協会に迎合するトランプ、国連武器貿易条約から離脱か?

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。当連載ではアメリカで報道された新聞記事について各派のアメリカ人が見解を披露する。今回は、銃規制に反対する全米ライフル協会を支持するトランプ大統領が、同協会の会合で「国連武器貿易条約」から離脱すると発言したことについて。


米大手メディアはなぜキリスト教徒迫害の現状を伝えないのか?

米大手メディアはなぜキリスト教徒迫害の現状を伝えないのか?

米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回は、欧米にはびこる「ポリティカル・コレクトネスの風潮」から、イスラム教徒の迫害は欧米でニュースになるのに、キリスト教徒の迫害は報道されないという現状について。


自分の子供を愛せない子供を愛せるか

自分の子供を愛せない子供を愛せるか

保守とリベラル派の対立が激化し「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが語る。日本よりも養子縁組や里親制度などが社会に浸透しているアメリカ。ふと見渡せば、養子や里親がいるという人も多いが……。






最新の投稿


クレジットカード社会のアメリカらしい、子供向けサービス

クレジットカード社会のアメリカらしい、子供向けサービス

日本とは異なり、アメリカでは50ドル以上の現金を持ち歩く人はとても少ない。「現金はまったく持たず、クレジットカードかデビットカードのみ」という人も大勢いる。そんなカード社会だからこそ重宝されている、子供向けのサービスがある。


50歳以上の女性を対象にした一軒家シェア・マッチングとは

50歳以上の女性を対象にした一軒家シェア・マッチングとは

地域などで差はあるものの、一般的に個人主義と言われるアメリカ人は、高齢になってもひとり暮らしを好む傾向が高い。しかし50歳を過ぎて独身の場合は、必ずしもそうとは言えないようだ。一軒家の所有者で同居人を探している人と、賃貸マンションやアパート暮らしに不安を感じている人をマッチングさせるサイトの人気が上がっているという。


アイデア靴下の大勝利? 旅行やアウトドアの必需品に

アイデア靴下の大勝利? 旅行やアウトドアの必需品に

夏、真っ盛り! 旅行やイベントなどの予定がある人も多い中、海外旅行や野外イベントに行くときに、ちょっと心配なのが貴重品の管理だ。大勢が集まる場所や海外ではスリやひったくりに遭わないよう、昔ながらの腹巻型の貴重品入れに財布やパスポートを入れて持ち歩く人もいるのでは? そんなあなたにオススメなのが、このアイデア靴下だ。


今週の神秘ナンバー占い(2019年7月12日~18日)

今週の神秘ナンバー占い(2019年7月12日~18日)

当たりすぎて怖い? ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスがお届けする今週の神秘ナンバー占い。神秘ナンバーとは、東洋数秘術、西洋数秘術、アステカ秘術など複数の占術をベースに導き出す、運気を読み解く数字のこと。あなたの運勢はどのように変化する?!


【Red vs. Blue】トランプ大統領、フロリダの集会で2020年大統領選の再選を宣言

【Red vs. Blue】トランプ大統領、フロリダの集会で2020年大統領選の再選を宣言

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。当連載ではアメリカで報道された新聞記事について各派のアメリカ人が見解を披露する。今回はトランプ大統領が来年11月に予定されている次期大統領選への立候補を正式表明したことについて。


アクセスランキング


>>総合人気ランキング