アマゾンは、なぜニューヨークの第2本社計画を断念したのか?

アマゾンは、なぜニューヨークの第2本社計画を断念したのか?

圧倒的にリベラル派が多く住むカルフォルニア州。同州在住でトランプ大統領に投票しなかったアメリカ人のひとりである著者が語る、今のアメリカのリアル。今回はアマゾン・ドットコム社が、ニューヨークに第2本社を建設する計画を突然取りやめると発表した件について、リベラル派の意見を述べる。


さらに成長を続けるアマゾンの米東海岸進出

 アマゾン・ドットコム社は今さら言うまでもなく、世界最大のインターネット小売業者であり、アメリカで2番目に大きい雇用主だ。本社はシアトルにあり、現在は市内の主要オフィス・スペース全体の20%を同社が使用している。同社は今も成長と拡大を続けているため、シアトルには拡張の余地がないことが明らかになり、2017年に北米で新しい都市を探して第2本社を建設することを発表した。

 アマゾンは、「第2本社に選ばれた都市には最大50億ドルを投資し、50,000人のハイテク労働者を雇用する」を謳い文句に、より寛大な税制上の優遇措置や政府の補助金を提供させるため、北米の都市を「招聘地」として競争させた。雇用拡大への期待などの魅力的な条件につられて、いくつもの都市が名乗りをあげたが、最終的にアマゾンは必要とする全条件をひとつの都市だけで見つけることは困難だと判断し、第2本社をニューヨーク市と首都ワシントン郊外バージニア州アーリントン市に分割することにした。

ニューヨークで何が起きたのか?

 アマゾンの決定が発表された直後、ニューヨークの地元政治家と地域の指導者たちが抗議を始めた。知事と市長はアマゾンとの交渉に市議会を含めず、アマゾンに市民の税金から最高で約30億ドルを与えることを含む契約を結んだが、市議会(ほとんどが進歩主義の民主党員)は、「なぜ、アマゾンが市民の税金からお金を受け取らねばならないのか?」を知りたがった。

 アマゾンには、市民の税金から何も受け取らなくても容易に移転できる経済的な余裕がある。市議会は「税金として集めたお金は市民に利益をもたらすために使うべきである」と主張し、アマゾンに対して一体何が約束されたのか、そして、その見返りに同市が何を受け取るのかを調べるための公聴会を開いた。

 この公聴会により、地域コミュニティーからのアマゾンへの反発はますます強くなっていった。2回目の公聴会では、同社は雇用者の労働組合加入を許可すると約束せず、それから2週間後、アマゾンはニューヨークへの移転を取りやめたことを発表したのである。第2本社の場所探しに1年以上の時間を費やした後の突然のこの決断は、多くの人々を驚かせた。

 しかし、これは進歩主義の民主党員にとっては、小さいが、非常に重要な勝利だと言える。企業欲や労働者の権利の搾取に立ち向かうこと、そしてアマゾンのような巨大企業の目論見を後退させることは民主主義の大きな成果である。利益を得ることが他の何よりも重要であると思われることが多い今日、市民の声が集まり、それが反映された結果として今回のようなことが行われたのは、アメリカの将来にとって良い兆候だと思う。

この記事の寄稿者

1974年生まれ。文学書とコーヒーを愛するコラムニスト。書籍に関しては幅広く読むが、コーヒーに関しては、豆の原産地から流通や焙煎の過程までを詳細にフォローし、納得したものだけを味わうことにしている。温厚で穏やかな性格であるものの、コーヒー豆へのこだわりと同様に理路整然としない、あるいは納得できない社会の動きに対しては、牙をむく活動派的な一面もある。妻と犬一匹と共に、カリフォルニア州オークランド在住。

関連する投稿


米大統領選ガイド(6) 「アメリカを二分する4大争点とは?」

米大統領選ガイド(6) 「アメリカを二分する4大争点とは?」

2020年11月3日に実施される米大統領選挙。トランプ現大統領率いる共和党とリベラルな民主党が政権奪回を争う選挙戦は、その後の世界情勢にも大きく影響するが、米大統領選のルールはかなり複雑だ。そこで、米大統領選を2000年から取材しているジャーナリスト・西森マリーによる、どこよりも分かりやすい解説をお届けしよう。


あなたの作品が永久保存される「スケッチブック・プロジェクト」

あなたの作品が永久保存される「スケッチブック・プロジェクト」

ニューヨークの「ブルックリン・アート・ライブラリー」が主催する「スケッチブック・プロジェクト」。これまでに世界101カ国から16万人を超えるクリエイターが参加している、ユニークなアート・プロジェクトとは?


米アマゾンの年末商戦、「子供の目線」のカタログ配布は功を奏すか?

米アマゾンの年末商戦、「子供の目線」のカタログ配布は功を奏すか?

昨年、米アマゾンドットコム社が突如開始したオモチャのカタログ。今年もホリデーシーズンに先駆けて、アメリカ国内の家庭にカタログが届き始めた。しかし昨年とは異なり、今年のアマゾンのカタログのマーケティングにはひねりがある。このカタログは、完全に子供たちに向けたものなのだ。


2020年版、「アメリカで最も求められる企業トップ100社」発表

2020年版、「アメリカで最も求められる企業トップ100社」発表

米ESG評価機関NGO「JUST Capital」による恒例の「America’s Most JUST Companies」の2020年度ランキングが発表された。地域への還元や雇用の創出、環境保全への取り組みなどの公共性など、時代を反映する各項目でそれぞれ高得点を得た米企業とは?


マイクロソフトが米国防省のクラウド契約を獲得

マイクロソフトが米国防省のクラウド契約を獲得

米国防省、通称「ペンタゴン」のクラウド・コンピューティング契約をマイクロソフト社が獲得した。これは破竹の勢いで拡大を続けるアマゾンドットコム社(AWS)が取ると見られていたため、米国防省のこの決定に業界がざわついている。






最新の投稿


米アマゾン本社内のホームレス・シェルター、まもなくオープン

米アマゾン本社内のホームレス・シェルター、まもなくオープン

物価の急上昇と共に増え続けるホームレス。そのことが大きな社会問題になっているシアトルに本社があるアマゾンドットコム社が、同本社内にホームレスの人たちが使用できる宿泊施設をつくり、3月末までにはオープンする予定だ。


元NBAスター選手コービー・ブライアント氏の追悼、米各地で

元NBAスター選手コービー・ブライアント氏の追悼、米各地で

バスケットボール界を代表するNBAスーパースター選手だったコービー・ブライアント氏が26日(日本時間27日)、乗っていたヘリコプターが墜落し、41歳という若さで亡くなったことを受けて、米各地で追悼集会が開かれている。


OKサインはOKじゃない!? アメリカでNGなジェスチャーとは

OKサインはOKじゃない!? アメリカでNGなジェスチャーとは

NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などをケンタッキー州よりジョーンズ千穂が紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。今回は日本ではOKでも、アメリカではOKではないジェスチャーやポーズについて。


今週の神秘ナンバー占い(2020年1月24日~30日)

今週の神秘ナンバー占い(2020年1月24日~30日)

当たりすぎて怖い? ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスがお届けする今週の神秘ナンバー占い。神秘ナンバーとは、東洋数秘術、西洋数秘術、アステカ秘術など複数の占術をベースに導き出す、運気を読み解く数字のこと。あなたの運勢はどのように変化する?!


オーストラリアの大火災と環境保護に逆行する米大統領

オーストラリアの大火災と環境保護に逆行する米大統領

圧倒的にリベラル派が多く住む米西海岸から、トランプ大統領と共和党の政策に真っ向から反対する日系アメリカ人ジャーナリスト、マイク佐藤がお届けする「トランプを支持しない人たちの声」。今回は、世界的な環境保護政策や気候変動への動きに逆行して、そうでないことを推し進めるトランプ大統領と彼に献金する人たちについて。


アクセスランキング


>>総合人気ランキング