日本の伝統武芸と「投資」の意外な共通点とは?

日本の伝統武芸と「投資」の意外な共通点とは?


 1989年、私は初めて日本の地を踏んだ。いわゆる「遠距離恋愛」というものを経て、日本人の彼女の家族に会うためだ。彼女の実家に着くと程なく、彼女の父が私を板張りの部屋に正座をさせた。そこは、観世流の能楽師である彼の稽古舞台であったのだが、その張りつめた空気の間で、やがて義父となる人の謡(*注1)を聴いた。何かが体の中に染み込んでいく感覚があり、不思議な体験だった。

 私の両親は音楽や演劇が好きなのだが、そんな両親の影響もあり、私も幼い頃からピアノやギターを習ったり、芝居を随分と見てきた。大学では作曲を専攻し、学生時代からFM局のJAZZ番組のナビゲーターをしてきたので、音楽にはいろいろ触れてきたのだが、能楽の音や世界観はショックすら感じるほど深く、新しいものだった。まだ当時は、日本語はかろうじて挨拶ができる程度だったが、能楽は言葉を超えて、若い自分の探していた何かと繋がる感覚だった。そして私はしばらく日本に滞在し、能楽を学んでみようと決めたのである。

 私は頻繁に能楽堂に出向いては多数の舞台を見た。能楽堂の舞台裏、衣装や楽器などを間近に見学する機会も得た。やがて日本語の力が付くと、国立能楽堂にある国際演劇協会で職を得て、ジャパンタイムス誌で日本古典芸能のコラム執筆も担当を任されるという幸運にも恵まれた。私は自然な流れに乗りながら、日本文化への理解をさらに深めていったのだ。

 「武道」「芸道」……。日本の神髄が育んで体系化してきた「道」の世界は素晴らしい。稽古を通じて、「技」を極めるとともに「精神」を鍛錬してゆく。己を見極め、識見を広げ、人格を高める。心構えや所作を学ぶことで、洗練された規範を遵守することを身に着け、社会や世界の平和と繁栄に寄与する心を修練してゆく、まさに「一筋の道」だ。
一見まったく異なるように見えるが、私は、投資は武芸に通じるところがあると思っている。それは一体何だろう?

 多くの人が投資に興味を持つ反面、苦い経験をした途端に諦めたり、興味を失って去っていく人も多い。「投資道」にも、たくさんの技も、心構えも、規範もある。侍であっても、茶人であっても、一夜にして達人にはなれないのと同じで、投資もすぐにはエキスパートにはなれないし、ましてや、すぐに一攫千金はありえない。投資は地道に学ぶ(稽古を重ねる)必要がある。私はここに、投資と日本の伝統武芸との共通点があると思うのだ。

 投資では、読みの甘さや失望も体験する。が、「決して一時の感情に翻弄されず、冷静に見極め、ルールを守って対処する」ことが黄金のルールである。これは武芸の神髄に似ていないだろうか? 昔の侍は、当時のいわゆる「ビジネスマン」であり、武道とともに能楽や茶道などの稽古が必修だったという。ゆるがない己を形成する「道」であるが故であるのではないかと思う。武芸と投資のこうした共通点は非常に興味深いと私は思う。それゆえ、私は今もなお、日々「投資道」の稽古を重ねているというわけだ。

*謡(うたい):能の詞章、歌謡。言葉、セリフにあたる部分のこと

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