テキサス人はなぜハーバード大学を嫌うのか?

テキサス人はなぜハーバード大学を嫌うのか?

米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回は、リベラル派で知られる有名女優らを含む金持ちの親たちが、自分の子供をハーバードやイェールなどの有名大学に裏口入学させていたことが判明して逮捕された件について。


裏口入学がまかり通る米上層社会

 先月12日、有名女優二人を含む約34人の金持ちが、子どもをスタンフォード大学、イェール大学、ハーバード大学、南カリフォルニア大学、ジョージタウン大学などの有名大学に裏口入学させた容疑で逮捕された。

 裏口入学を斡旋したウィリアム・リック・シンガーという男に親たちが支払った総額は約2,500万ドル。シンガーは大学のスポーツ・コーチや職員を買収し、全くスポーツの経験のない子どもを一流選手だと偽ったり、大学進学適性試験の点数に何百点も上乗せするなどの手段を講じて約40人の高校生を一流大学に裏口入学させた。特に、この二人の女優がかねてから、富の再分配とアファーマティヴ・アクション(入学入社・昇進などでの少数派優遇政策)を支持し、トランプと共和党が推進する能力主義を批判していたことと、逮捕された親の多くが民主党政治家へ多額の献金をしていたことも手伝って、テキサス州でもこのスキャンダルは大きな話題になっている。

 しかし、テキサス人はこのスキャンダルよりも、むしろ合法的裏口入学システムと言っても過言ではない「レガシー・プログラム」や「大口寄付者優遇制度」の方が大きな問題だと思っている。後者は、文字通り「大口の寄付をしてくれる富豪や政治家の子どもを優先的に入学させる制度」で、今、話題になっているのは南カリフォルニア大学に7,000万ドルも寄付したミュージシャン、Dr. Dreの娘が同大学に入学した例だろう。

 レガシー・プログラムとは卒業生の子孫を優先的に入学させるシステムで、MITやカリフォルニア工科大学など、ごく一部の大学を除く有名大学のほとんどが実施している。公平な入学制度を求める非営利団体の調査によると、「親が卒業生である入学希望者の合格率は、そうではない志願者の合格率の5倍以上」で、「大学進学適性試験の点数に換算すると160点を上乗せしたのと同じ計算になる」という結果が出ている。

リベラル派と讃えられる有名大学が裏口入学を受け入れている現実

 ハーバード大学のアジア人応募者差別(アジア人の数を抑えるために人格審査でアジア人に低い点数をつけ、黒人とヒスパニックに高い点数を与えている)は、今まさに最高裁で討議されている最中だが、人種的な多様性を重視するリベラル・エリートの総本山であるハーバード大学の学生の約3割はレガシー・プログラムの入学者で、彼らの9割は上流階級の白人だ。

 ハーバード大学のローレンス・トライブ教授やキャス・サンスタイン教授(オバマ政権のアドバイザー)、ハーバード卒のオバマ夫妻やサマンサ・パワー(サンスタイン夫人、オバマ政権の国連大使)が、相続税を上げて農場や牧場が子孫に受け継がれることを阻止し、富の再分配を目指していたことも忘れてはならない。彼らは、農場や牧場でこつこつと働いた祖先が開拓した土地を、子孫に相続させることには大反対しているが、ハーバード大学の入学権という計り知れない富を子孫に受け継がせることには何の疑問も抱いていないようだ。

 テキサス人には、努力して好成績を収めた人間が報われるという能力主義の社会こそが真に平等な社会だと信じている人が多い。そのため、レガシー・プログラムという合法的な裏口入学を平然と実施しているハーバードの偽善に我慢ならないのである。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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